新しいカウンセリングシステム トリートメント・コーディネーターの活用

1.トリートメント・コーディネーター(TC)の役割

多くの歯科医院では、カウンセリングを行う事の重要性が認知されつつありますが、それを、誰がどのように行うのかについては、試行錯誤が続いています。
そこで、登場するのが、トリートメント・コーディネーター(TC)です。

1.トリートメント・コーディネーターとは

日本では、なかなか聞き慣れない言葉ですが、欧米では、歯科領域において、確立された名称となっています。
主な仕事は、歯科医師と患者さんの間に立って、治療の説明やカウンセリングを行い、その後、診療スケジュールにそって治療を行っていくための管理をします。
アメリカでは、歯科医師が治療の方針を決定すると、その説明をトリートメント・コーディネーターが行います。
また、その他の治療方法に関する相談をうけたり、患者さんのために支払い方法などのファイナンス計画を立てたりもします。
日本国内での動きをみると、日本歯科TC協会という所が、トリートメント・コーディネーターの資格認定を行っています。
そこのホームページでは、トリートメント・コーディネーターの人物像を次のように説明しています。

TCの人物像
これらの内容をすべて行えるようにする事が、最終目標ですが、まず初めに学ぶべき事は、患者コミュニケーション能力の育成です。
人はそれぞれ異なった価値感を持ち、充足させてもらう事を期待しています。
その価値感を充足させてもらった時に、幸せを感じます。
相手が何を期待しているのかがわからないままに、押し付けてしまうと、それは自己満足におわり、相手は幸せを感じる事ができません。
相手が何を求めているのか、顕在化しない真の欲求を引き出してあげる事がトリートメントコーディネ-ターの仕事です。

2.トリートメント・コーディネーターの必要性

院長先生は、売り上げを伸ばしていくためには、どうすればよいのかと、日々、頭を悩ませていることでしょう。
保険診療は、診療点数が決められているため、患者数を増やす事でしか売上げを増やす事が出来ません。
どんなに回転数をあげても、ドクターの人数とチェア台数が同じであれば、いずれは限界を迎えて、売り上げは頭うちです。
このような状況では、日々数を求める治療に追われて、十分なカウンセリングの時間は取れなくなります。
そして、時間に追われて治療を行うと、ミスが起こる事もあり、ドクターは、自らが行う治療の質について、疑問を感じてしまうのではないでしょうか。
ドクターにとって、一番大切な仕事は、治療です。
その大切な仕事に専念して頂くために、TCが業務の一部を分担する形が出来てきました。
TCによるカウンセリングシステムを導入すると、一時的に患者数は減りますが、カウンセリングにより、患者さんの満足度、患者さんのデンタルIQが向上し、結果として、自費率が向上して売り上げが伸びていきます。
しいては、医院の評判もあがり、患者数も伸びていく事となります。
TCによるカウンセリングシステムを導入すると、医院は変化していきます。

院長先生の業務

3.トリートメント・コーディネーターの適正

TCに一番期待する仕事は、患者さんとのカウンセリングの中にあります。医院や医師の紹介は、マニュアルやツールによって、誰にでもできます。
重要なのは、限られた時間の中で、患者さんの本音を引き出すカウンセリング能力です。
例えば、初対面で、年配の患者さんを相手に、どこまでの会話ができるか?
相手の本音をどこまで聞き出す事が出来るのか? といった所がポイントです。
最終的には、あなたに任せれば、大丈夫、あなたにお任せします、と患者さんに思わせるだけの信頼関係を構築しなければなりません。
さまざまな患者さんを相手に、信頼関係を構築するためには、「心の充実」「人間性の高さ」が、必要です。
院内において、TCに適した人材を探すには、次のような方法があります。
この能力の高いスタッフは、どのような職種であっても、院内にいるすべての人に対して、気配りが出来ています。
気配りをして、気になった事があれば声を掛けるとか、積極的に患者さんや仲間スタッフと会話をしているスタッフが適任と言えるでしょう。

TCに望まれる姿
実際のカウンセリングにおいては、患者さんの本音を聞き出し、そして、さまざまな治療提案をし、患者さんからの質問にも答えることが必要です。
そのための知識を高める事も重要なポイントです。

知識・技術の向上

 

TCは、院内のさまざまな場面に合った、院長先生の診療方針に沿った正しい考え方を持つ必要があります。
治療提案を受けた患者さんの気持ちを考えたり、院内のチームワークについて考えたり、医院全体の評価を考えたりと、多くの仕事を受け持つ事となります。

正しい考え方

2.TCが行うカウンセリングシステムの導入

1.システム導入の目的

カウンセリングは、TCが一人で行いますが、歯科医院はチームワークで成り立っています。
新しいシステムを導入し、成果を上げるためには、その目的を全体で理解し、共有することが必要です。
患者さんにとって充分なカウンセリングを行う事は、患者満足度向上につながります。
どんなに素晴らしい治療を行ったとしても、それがすべて患者さんに伝わっているとは限りません。
TCは、先生の治療方針と治療技術を、わかりやすく説明し、患者さんの納得を得てから、治療に入ってもらいます。
患者さんが、納得し、自ら選択した治療を行う事で、最終的な満足度は高くなります。
また、カウンセリングは、4回行う事が基本ですが、患者さんはその間に、いつでも質問する事ができ、ちょっとした疑問も解消する事ができます。
TCは、この4回のカウンセリングを通して、患者さんとの信頼関係を高めていきますが、その間、患者さんのモチベーションにも気を配らなければなりません。
TCは、カウンセリングを通して、治療後の素晴らしい姿をイメージさせ、それを共有し、共に進んでいくことが必要です。
カウンセリングを4回行うという事は、治療の節目、節目で、患者さんのモチベーションを、その都度確認するといった意味もあります。

カウンセリングのポイント

2.カウンセリングの流れ

カウンセリングの流れ

3.初診カウンセリング

初診カウンセリングの最大の目的は、患者さんとの距離を縮めて、医院への親近感を持ってもらう事です。
患者さんは、さまざまな不安を抱えており、TCはそれを和らげる事を考えてカウンセリングを行います。
そして、会話を通して、患者さんのニーズを探っていきます。
しかしニーズが潜在化している場合は、自分でうまく説明ができないため、TCがカウンセリングを通して、引き出していく事が必要となります。
また、ここでは、予約制などの医院のルールの説明や、患者さんのスクリーニングも行います。

初診カウンセリング

4.セカンドカウンセリング

セカンドカウンセリングでは、初回来院時の検査結果を伝えながら「来院者の3大関心事」に応えていくことが中心です。
「来院者の3大関心事」とは、(1)「虫歯は何本あるか?」 (2)「どれくらいの治療期間が必要か?」(3)「どれくらいの治療費用がかかるか?」です。
セカンドカウンセリング時には、保険適用範囲内で治療を進めていくのか、必要に応じて自費診療も取り入れていくのかが決定していませんので、①と②の説明が中心です。
TCは、患者さんに現状を理解して頂き、患者さんにとっての理想イメージを作成します。
そしてTCは、それを患者さんと共有し、共に理想のゴールへ向けて、進んでいきます。

実施アイテム例

5.補綴カウンセリング

補綴カウンセリングの目的は、補綴物の選択に関する中立かつ効果的なアドバイスを行うことで、また来院者の選択肢を広げるとともに、選択する際のフォローを行うことです。
TCは、現実と理想のギャップを埋める方法の選択肢を提示します。
悩みを解決する方法を提示し、断られる理由の払拭を行います。

補綴カウンセリング

6.終了カウンセリング

終了カウンセリングは、治療が終了した際に行うもので、疑問点の払しょくや今後のメンテナンス等の解説が目的です。
また、患者さんに、治療後の姿を確認して頂き、理想形が完成した事を確認して頂きます。
TCは、治療の過程を振り返り、患者さんが選択を行った場面のお話をします。
そしてその選択が、理想の姿を完成させた事を説明します。
これは、患者さんの満足度を高める事となり、メンテナンスのためのリコール率アップにもつながっていきます。

実施アイテム例

3.TCによるカウンセリングの効果

1.クレームの減少 クレーム1:29の法

一人からクレームがあった場合には、その背後には29 人の不満を持っている方がいるといわれています。
多くの患者さんは、不満に思っていることを口にしません。
受付スタッフに苦言を呈して帰るか、無言のまま去っていくかです。
しかし、カウンセリングシステムを導入していると、カウンセリングを通じ、しっかりと不満や心の声を聞いてあげることが出来ます。
また、受ける方も、貴重な意見として真摯に対応する姿勢が必要です。

クレームの減少 クレーム1:29の法
対応の第一原則は、まず相手の意見を否定せずによく聞くことです。
TCは聴く事に徹することが大切です。
その上で患者さんが何を望んでいるかを見極め、しかるべき対応をします。こうした姿勢とクレーム対応体制の構築、そしてクレーム後の素早い対応・対処・改善が、クレームの減少につながっていきます。

2.キャンセル率の減少

予約のキャンセル率は、歯科医院に対するロイヤルティをはかる指標です。
患者さんは、日々複数の予定に優先順位を付けて行動しています。
歯科医院に対するロイヤリティが低い場合、歯科治療の優先順位が下げられてしまい、結果としてキャンセルにつながってしまいます。
一般的には、キャンセル率の目安として、連絡ありのキャンセルは10%以内、無断キャンセルは5%以内に収まっているのが適正だといわれています。
キャンセル率を下げるには、カウンセリングを通じて行うふたつの取り組みが必要です。
ひとつは医院のルールを伝えることであり、もうひとつはカウンセリングを通じて、個人的な人間関係を構築していくことです。

3.中断率の減少

治療の中断が多い医院の一番の原因は、来院者側が持つ利便性のニーズだけに応えてしまい、患者側もその点の重要性だけで来院していることです。
こうした患者さんは、「ちょっと痛みだけとってくれたらよい」「外れたところをつけて欲しい」というように健康や歯に対する価値観が低い傾向があり、継続的に来院される方が少ないのが特徴です。
そういった患者さんへのカウンセリングでは、言葉だけではなくビジュアルを用いた説明が効果的です。
医院へのロイヤリティを高く持っていただき、治療計画への理解と協力をしてもらうように取り組むことが必要です。
このカウンセリングによる理解度の深さが、治療中断率を減少させることにつながります。

中断率の減少

4.自費率の向上

自費率の向上には、情報提供の量と質に焦点を絞る必要があります。
どれほど情報提供をしても、患者さんとの間に信頼関係が構築されていなければ、自費の押し付け・押し売りと受け取られます。
カウンセリングによって、希望する治療や適している治療が自費診療であると医院が判断し、それが患者さんに受け入れられるのは、お互いに信頼関係が構築されてからです。

自費率の向上

5.チェア回転率の向上

院内カウンセリングの実施によってもたらされるものの中で、経営的な観点での大きなメリットは、チェア1 台当たりの回転率向上が挙げられます。
一人ひとりの患者さんに、十分なインフォームドコンセントを実施した上で、治療を進めていくには相応の時間がかかりますから、経営の観点からは非常に難しい側面を抱えています。
したがって、カウンセリングを活用して治療とコミュニケーションの分離を図り、有効な情報提供を行います。また、チェアの回転率と診療単価は反比例の関係にあります。
患者数が多くなると回転率は上がりますが、保険診療だけで精一杯となるため自費診療への取り組みが出来ず、さらには保険診療でも十分な治療や指導が出来ず、単価も低くなってしまうのです。
しかし、カウンセリングルームでカウンセリングを行うとチェアが早く空くため、その分回転率も上がり、また、自費率向上によって収益アップも見込めます。

6.ファン患者層の増加

TCがカウンセリングを実施することによって、患者さんそれぞれが最適と考える治療計画を提案し、得られる効果が価格以上の価値があるということが共有できれば、患者満足度の向上につながります。
他業界では、サービスレベルが高ければ価格も高いのは当然ですが、歯科医院では、自由診療であっても評判を気にして、サービスレベルが高いにも関わらず価格を抑えてしまう結果、患者満足を創造できないという傾向がみられます。
歯科医院のブランドとは「来院者との約束」であり、また、約束を継続することがファンを増やしていくことになります。
長期的視点で患者さんとの関係を構築していくことが重要です。TCの果たす役割は大きく、歯科医院と患者さんとの関係に好循環を生むためには欠かせない存在となります。

ファン患者層の増加

7.スタッフのモチベーションアップ

歯科医院のスタッフは、3年程度の勤務経験で「業務内容に習熟してしまい、日々の仕事がマンネリ化する事で、次の目標が見えなくなってしまう」という方も多いようです。
特に、歯科衛生士の資格を持たない歯科助手の場合は、待遇面や業務範囲に限界があるため、歯科衛生士よりもモチベーションを保つのは難しいようです。
こうしたスタッフに、将来のキャリアビジョンを提示し、自己成長や仕事に対するやりがいを用意してあげられるかどうかは、院長や経営者の役割・責任であり、今後は最も重要になると言えるでしょう。
カウンセリングシステム導入とTCの育成は、スタッフの持つ能力を発揮させるステージをつくり、スタッフの次の目標を明確に示すことのできる最善策です。

スタッフのモチベーションアップ

4.カウンセリングシステム導入 Q&A

1.TCの業務範囲

Q.トリートメント・コーディネーターには、カウンセリングのみを行わせるのか?

A.カウンセリングシステムを導入したばかりの時期は、カウンセリングのアポイントが、多く入っている訳ではありません。
この時期には、助手的な業務も同時に行う事となります。
そして、カウンセリングのアポイントが、1日に5~6人を超えるようになったら、カウンセリングの準備や情報提供ツールの作成のために助手的な業務は削減し、カウンセリングを専門的に行っていく事となります。

2.カウンセリングを行う環境

Q.なぜチェアサイドではなく、カウンセリングルームで行うのか?

A.チェアサイドでは、「診療する側 ⇔ 診療される側」の関係になってしまい、患者サイドからとると、言いたいことを言えない状態になります。
また、隣の来院者に聞かれているのではないかという不安感から、本当の悩みを打ち明ける事が出来ないことが多いのです。
また、医院側の事情としては、チェアを空けることで治療患者さんの回転率が上がります。

3.カウンセリングのポイント

Q.カウンセリングに取り組む際のポイントは?

A.治療とともにカウンセリングのアポイントを取り、忙しくてもカウンセリングのタイミングを決めて、必ず実施する。
カウンセリングの事前・事後に、ドクターとコーディネーターが情報交換をする事で、最適な提案を行えるようにする(情報を共有化するためのシートを用意する)。

4.TCの適性は?

Q.トリートメント・コーディネーターの適性能力には何が必要か?

A.歯科の基本知識や経験といった歯科のキャリアも必要ですが、患者さんの様々なタイプに合わせられる対応力・臨機応変力のある人間性の高いスタッフが望まれます。
対人コミュニケーション力という言葉で表現されますが、人見知りをせず、患者さんの言葉をよく聞き、患者さんの気持ちを把握・理解し、判りやすい言葉で説明する、という性格が求められます。
また、新しい取り組みに抵抗感の少ない、前向きなタイプが合うと思われます。

5.TCがカウンセリングを行う理由

Q,.なぜ、歯科医師ではなく、TCがカウンセリングを行うのか?

A.患者さんにとっては、歯科医師は治療をしてもらう特別な存在なので、言いにくいという感情を必ず持っています。
スタッフがカウンセリングを行うことで、言いやすい、もしくは聞きやすいという雰囲気を作ることができます。
また、カウンセリング室で行うことと、TCという立場を明確にすることで、患者さんがより質問や相談をしやすい環境を提供することができます。
医院にとっても歯科医師がカウンセリングをしないことで治療がスムーズに進みます。

6.カウンセリングルームは?

Q.カウンセリングルームはどのように作れば良いのか?

A.患者さんの導線を考えると、診察室の奥よりも待合室から近い診察室の入り口付近に設置するのが良いでしょう。
患者さんの不安を解消するためにも、コストをかけて、より落ち着ける雰囲気作りが重要です。
狭いとか暗い場所は避けましょう。
窓が有ればもっとも良いのでしょうが、半透明ガラスを活用して、秘密性を持たせつつも解放感も演出しましょう。
気持ちを軽くするため、明るい雰囲気づくりが必要です。
ガラスだけでなく、照明(柔らかい明るさ)にも注意しましょう。

■参考
平成23年12月3日 株式会社吉岡経営センター主催 「トリートメント・コーディネーター育成セミナー」より抜粋 講師 株式会社デンタルマーケティング 代表取締役 寶谷 光教氏

この記事をPDFファイルでダウンロードする