新人スタッフ入職時に対応する!歯科スタッフの戦力化

1.歯科スタッフ戦力化の重要性

歯科医院経営は、歯科医師が患者を治療するだけではありません。
医院に勤務する全スタッフが、受付から治療、診療費支払まで関わっています。
実際に患者と長く接触しているのはスタッフです。
院長にとって、スタッフの能力を高め、いかに戦力化するかは最大の課題です。
歯科医院経営を安定させるためのカギは、運営を支える優れた歯科衛生士を育成し、ワンランク上の患者応対をすることです。

1.組織力強化 = 業績向上

現在、歯科診療所1件に対する歯科衛生士数は1.4人と、十分な歯科診療を行う環境作りに苦慮している歯科診療所も多く存在します。
安定して患者数を確保するためには、歯科衛生士の確保と共に、採用した歯科衛生士を育て、定着させることは非常に重要となります。
そのためには、院内組織力の強化、つまり「院長」や「歯科衛生士」の役割分担や能力の向上と各人の力の結集が重要です。
このことが「組織力」の強化へとつながります。
歯科衛生士が院長の経営方針や診療理念を理解した上で最大の能力を発揮し、院長が個人能力を発揮出来る仕組みを作り、医院全体という組織でチームワーク良く診療することが業績向上の基本となります。

組織力強化の方程式

2.戦力化の目的

戦力化の大きな目的は、経営の成果を最大限に高めるため、組織全員の考え方を同一方向に集約し、達成に向けた全員の能力と意欲を相乗的に高めることです。
相乗的とは、意欲が高まると能力が高まる、能力が高まると意欲が高まるということです。
それぞれが少しずつ伸びることにより、更に伸びて行くものです。

(1)成果を最大限に高める公式

成果を最大限に高める公式
「能力」「意欲」「考え方」をそれぞれ高めることにより、相乗的に成果はあがります。
マイナスの考え方をしていると、大きなマイナスの成果として現れてしまいます。
現実問題として、院内の組織が上手く機能していないと患者応対に支障が出ます。
院内が楽しく、そして快活にあふれ、やる気の出る状態になっていないと、素晴らしい医院が出来上がりません。

(2)歯科衛生士に求められる能力

歯科衛生士は主に歯科予防処置、歯科診療補助、歯科保健指導を行うことができるスペシャリストです。
高齢化の進展に伴い、その活動の場は、生涯を通じて歯の健康づくりや口腔ケアを支援するなど、地域に広がっています。
歯科医院以外に、保育所・幼稚園、学校、保健所・市町村保健センター、企業、そして介護老人保健施設、居宅などです。
そのため、歯科衛生士を一生の仕事としてライフワークにする人が増えています。
専門性の高い知識・技術を求められるのはもちろんですが、人々の健康志向の高まりとともに、歯・口腔の健康づくりを通して、食べる力、生きる力をサポートする役割に期待が寄せられています。

3.経験別にその特徴を理解する

歯科衛生士の場合、専門学校の卒業時期や経験値により、受けた教育内容やスキルの差があります。
過去勤務した医院の体制により大きくスキルが違う事が往々にしてあります。
「新卒者」「転職者」「復帰者」とグループを分けて育成方法を考えなければいけません。

(1)新卒者

現在、歯科衛生士学校の修業年度は3年間になっています。
2年間は、対人での実習は少なく、模型と器具によるトレーニングが多くなっており、歯科医院に勤務して初めて口腔衛生指導や歯石除去等を行う衛生士もいます。
3年目には臨床実習が主になりますが、患者と向き合って実務を行うのは勤務してからという歯科衛生士もいます。
実務と知識のギャップに悩むケースもありますので、戸惑いを早期に解消する場を設ける場が必要です。

新卒者の特徴

(2)転職者

転職者の場合、2年制教育制度での卒業生がほとんどです。
そのため、実習や臨床実習などの時間数が少なく、過去の勤務医院での経験がすべてです。
歯科衛生士の業務は、繰り返し行う業務が多く、新鮮さに欠け、向上心を無くしてしまっている歯科衛生士もいます。
医療技術や医療機器は日進月歩のごとく進化していますので、院長が歯科衛生士に、知識や技術が自院にマッチしているかを確認する必要があります。

転職者の特徴

(3)復帰者

結婚や出産により一度現場を離れ、再度、職場に復帰した歯科衛生士です。
家庭と職場の両立を希望し、パート勤務が多いのが特徴です。
個人の資質にも関係しますが、長い人生経験から、コミュニケーション能力が一段上の歯科衛生士が多いようです。
また、人間関係の複雑さを知っているため、スタッフ間の人間関係にも気配りし、うまく立ち回れます。

復帰者の特徴

2.歯科スタッフの育成プログラム

歯科医院の業務を覚える前に、院長先生の診療方針や経営理念を理解してもらわなければいけません。
すべての業務や行動は、院長の診療方針や経営理念を基に組み立てられているからです。
業務習得はそれからです。

1.院内ミーティングによる院長のビジョンの浸透

組織は、一人ひとりが多様な価値観を持っていますから、組織の人数が増えれば増えるほど、全員が同じ基準で考え、同じ方向を向いて行動できる土壌をつくることの重要性が増してきます。
だからこそ、浸透しにくいビジョンやミッションを、スタッフに判り易いように伝え、判断基準とするためのミーティングの意義が大きくクローズアップされるのです。
院内ミーティングの留意ポイント

2.相互実習と受付業務の重要性の把握

(1)相互実習

患者相手の実習はできませんので、患者の状況を確認し、感情の把握や気配りが自然にできるようにならなくてはいけません。
診療時間は助手として見学し、診療後にスタッフが、歯科衛生士役と患者役になって相互研修を行い、実務感覚を養います。

相互実習で身に付けるポイント

(2)受付の重要性を認識させる

受付・会計業務は歯科助手の専門業務ではありません。
スタッフ全員が行えるスキルを身に付けておくことが重要です。受付は医院の顔であり、受付での応答により患者が受けた第一印象が、医院の印象としてずっと残っていきます。
謙虚で礼儀正しい態度で応対し、笑顔を忘れずに患者の目を見て話すよう指導します。
ぞんざいな態度、軽率な言葉、上から目線での話し方や説明をしてはいけません。

受付業務の指導ポイント

3.育成プログラム

患者対応力は「接遇」とまとめられますが、身だしなみ、態度、言葉使い、笑顔、挨拶と様々です。
患者の痛みや不安という感情等に、臨機応変な対応が求められます。

育成プログラムの例
上記のように、幅広いメニューとなりますが、マニュアルを作成して終了ではなく、実際に出来るように実習させることがポイントです。

3.患者対応力を高めるポイント

一般的なサービス業の接客と医療現場での接遇とは、目的が違います。
医療では、患者に快適なサービスを行うことにより、病気を治そうという当人の意欲を引き出し、努力してもらうよう努めることが目的となります。
一方サービス業は、お客様へ快適な空間や応対を提供し、購入意欲を高めることとサービス自体に付加価値を付けることが目的です。

1.医療現場でのコミュニケーション能力

患者は、どんな病名なのか、どんな治療をするのか、痛いのか、治るのか、といった不安を持っています。
治療をする側が安定した態度や安心させる言葉使いをして、患者が気を落ち着けるようにすることが必要です。

(1)電話応対

予約診療が主流となっている歯科医院の受付業務では、電話応対は重要です。
心を込めた応対で、心を込めた診療をしていることを直接的な言葉と心を込めた対応で、相手に伝えることが求められます。

電話応対のポイント、電話応対の基本手順

(2)受付時の応対

受付の応対については、前述のとおり、医院の顔であることを意識させます。
最初の来院受付時の応対が、その医院を印象づけるといっても過言ではありません。
また、診療室にいると受付まで目が届かないケースがあります。
定期的に患者アンケートを行い、患者の生の声を確認します。

受付業務のチェック

(3)会計時の応対

会計はスピーディーに行います。
診療後は、心を込めてねぎらいの言葉を掛けます。
会計時に予約を取ることもあります。
次回の支払が高額になることが予想されるのであれば、予め金額の概算を伝えるなどの気配りが重要です。会計・予約の手順ごとに説明し、確認します。
会計の最後には、温かみのある言葉であいさつをし、見送ります。

会計時の応対チェック

(4)診療時の応対

診察室では、解りやすい説明が重要です。
「解りやすい」「質問しても嫌がられない」「解るまで説明してくれる」という要望は、いつも寄せられます。
そのため、「説明する」ではなく、「説明内容を十分伝える」ということを意識して対応します。

診察時の応対のポイント
患者の不安である気持ちを考え、回答が楽になる話し方や言葉使いを覚え、安心と信頼を得られる会話を心がけます。
院長が患者と信頼関係が築けるということは、スタッフとの関係も良好に築けるということです。
また、言語によるコミュニケーションは、患者に対しては、クレームを少なくし、ファン患者の増加を意味します。一方、スタッフに対しては、コミュニケーションにより「ほう・れん・そう」が円滑に運用され、医療事故防止に向けた有効な対策になります。
さらにはスタッフのモチベーションアップにもつながり、院内が活性化することも期待できるのです。
正しい言葉遣いを身に付けるとともに、言語による十分なコミュニケーションを図るための取り組みを院内全体で推進することが重要です。

4.歯科スタッフの戦力化事例

歯科スタッフを戦力化するためには、モチベーションのアップと研修制度の整備は欠かせません。
そこで、これらに積極的に取り組んでいる3つの歯科医院の事例を紹介します。

1.スタッフのモチベーションアップに取り組むA歯科医院

スタッフの戦力化の前提として、院長とスタッフ、スタッフ間のコミュニケーションが図られているかが重要です。
A歯科医院では、診療開始前の3分間ミーティングと現場情報メモの活用により、スタッフのモチベーションアップに成功しました。

スタッフのモチベーションを高める事例
特に、現場情報メモの活用は効果的で、院内の雰囲気が変わりました。
クレーム等悪い情報は、早期に伝達し解決する必要がありますが、患者から言われたちょっとしたうれしい一言や感謝は、意外と取り上げられないケースがあったそうです。

2.事例研修を実施しているB歯科クリニック

B歯科クリニックでは毎月、事例から学ぶ研修会を継続して開催しています。
実際に起こったトラブルやミスなどを題材に、どこが悪かったのか、自分だったらどう対応するか、どう対応することがベストだったのかといったことをスタッフ自身に考えさせます。

実際の研修会で使用したケーススタディ例
スタッフが判断に困ったこと、実際に患者とトラブルになったこと等を題材に話し合い、研修会後、事例検討結果をまとめて保存し、新人職員間で閲覧するなど、新人教育にも役立てています。

実際に研修で取り上げた事例

3.優秀職員シートを活用しているC歯科医院

C歯科医院では、職員一人ひとりが「優秀職員シート」を作成し、毎月発表しあう場を設けています。
職員の中には、業務のすごく早い人、何でも知っている人、患者からの評判のよい人などがいます。
それら優れている点を個人別にシートにまとめ、発表しあいます。
次に、優れていると発表された職員は、普段どのような努力をしているのかを、他の職員に発表します。
これにより、優れていると発表された職員は、嬉しく感じ、より努力をしますし、コツを伝授された職員は、自分もやってみようということになり、相互に啓発されるという善循環を生んでいます。

優秀職員シート
シートは、ジャンル別に細かく設定し、院長はスタッフ全員がどこかに該当するように配慮しています。
上記のシートでは、このほかに、院内・院外清掃、お年寄り・小児の対応、観葉植物の管理等、ジャンルは多岐にわたります。
誰にでも優秀な点はありますので、シートのジャンルを工夫して、できるだけ全員がコツを伝授できるように考慮することがポイントです。
紹介した取り組み事例は、どれも多額な費用を必要とせず、かつ現場に即した取り組みや研修であるため、高い効果が生まれたと思われます。
戦力化というと、高いお金をかけた海外研修や外部研修への参加などに目が行きがちですが、少し視点を変えて、スタッフを巻き込んで検討することにより、自院に合ったより効果的な戦力化の方法が見つかるかもしれません。

■ 参考文献
クインテッセンス出版株式会社 「今すぐ医院に貢献できる 歯科衛生士の育て方」加藤久子著

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