組織力強化 スタッフ育成の ポイント

1.歯科医院におけるスタッフ育成のあり方

「優秀な即戦力を獲得したい」多くの院長先生はこう考えています。
しかし、実際には良い人材に巡り会えず、ある程度の経験者を採用することが多いのも事実です。
その為、採用したスタッフを一から育て、戦力化していくことが重要なポイントとなります。
スタッフ育成にあたり、様々なステップを踏まなければいけません。
まずは医院の課題を把握し理想のスタッフ像を示すことがポイントとなります。

1.歯科医院におけるスタッフ育成の課題

歯科医院がスタッフを育成するにあたり、次のような課題があるとされます。

育成課題
小規模の組織である歯科医院は、研修予算も職員数も少なく、スタッフ育成に資本を投じにくいため、技術的スキルのみを評価してしまい、組織を構成する上での基本行動が身についていないまま年数を重ねるケースもあります。
この体制では、技能に偏った成長しか期待できません。
育成を実施する側の課題として、歯科医院が求めるスタッフ像を示した「スタッフ育成方針と目標」、すなわち「組織のベクトル(=目指す方向性)」が明確になっていないことが挙げられます。
具体的な教育計画やゴールを示されないまま、新たに入職したスタッフが自ら目標を設定することは困難です。

2.理想のスタッフ像を示すこと

スタッフを育成するには、院長や先輩スタッフがロールモデル(手本)を示しながら、診療所の理念から落とし込んだ目標や役割を理解させ、各スタッフに期待するスキルを習得させるように導くことが必要です。

理想的な育成計画の展開
また業務レベルについては、自院にとって必要なスキルの項目を決めてチェックリストを作成し、日常の部下の観察を行います。
そして、上司と部下、先輩と後輩が互いに業務修得レベルを定期的にチェックして、面接を行います。

業務チェックリスト項目例

3.自医院のスタッフ育成の取り組みを分析

スタッフ育成には、診療理念の明確化から実際のシステム運用まで、さまざまな取り組みが必要です。
研修だけを取り上げても、スタッフが個別に取り組む自主研修、院内で行なう研修や外部講師の招聘、海外視察研修等と多岐にわたります。
しかし、小さな組織である診療所では、実際にスタッフ育成の体制やツールを備えることが困難である場合や、また「スタッフを育てたいが、何をどうすれば良いのかわからない」と、なかなか具体化に着手できないケースも多いと思われます。
そこで、下記のチェックリストをもとに、現在の自院のスタッフ育成の取り組み状況について診断してみましょう。
チェック項目が5個以下の診療所については、早急にスタッフ育成の仕組み作りが必要です。

スタッフ育成の取り組みチェック

2.スタッフのモチベーションアップを図るポイント

1.職務内容の満足度向上

各スタッフが自身の業務の重要性を認識し、自院への貢献を実感できることによって、スタッフはより意欲的に業務に取り組むことができます。
さらには、成長に向けての意欲を持つことにつながります。
重要なのは、自身が医療機関のスタッフとして、プロフェッショナルのサービスを提供しているという実感を持ちながら業務に取り組んでいく、職務意識の醸成です。

職務意識醸成と意欲向上の関係

2.人事評価によるモチベーションアップ

人事評価を実施し、前向きに研修に取り組み、成果を出したスタッフに、良い評価を提示します。
院長からの「良くやってくれた」の一言で、過去の努力が報われ、スタッフのモチベーションは更に上がるはずです。
評価項目を作成する際のポイントは、数値化しにくいスタッフの業務を「見える化」することです。
例えば、クレーム対応を担当した件数、参加したセミナーや研修の回数、改善を提案した件数、患者からの感謝状および良い意見箱の件数などを評価項目に組み込みます。
評価制度が定着したら、昇給や賞与に評価結果を反映させ、良い成果があったスタッフを待遇面でも評価するのです。
これにより、優秀なスタッフのモチベーションが上がるとともに、職員定着率もアップします。

スタッフの評価項目例

3.育成への姿勢と指導者のスキルアップ

指導の際には、意識・行動強化と本人が意欲的に業務に取り組めるような育成方法が重要です。
同時に、当然のこととして、指導側のスキルアップも求められます。

育成への姿勢と指導者のスキルアップ

3.能力を引き出すための医院ルールづくり

個々のスタッフのモチベーションアップの次には、アップしたモチベーションをどう維持させるか、組織としてどう活性化させるかです。
院内の組織風土は、院長が目指す理想を明確にすることにより基盤を整え、院内ルールや対話を実践する診療所を目指す取り組みを進めていくことで醸成します。

1.理想像の明確化

院長の理念、すなわち診療所の理念が明確になっており、それがスタッフに浸透していなければ、院長の理想とするサービス提供は実現しません。
今後の方向性、ターゲットとする患者層、将来の事業展開、アピールポイントを整理したうえで文書化しておき、常に スタッフに提示できるようにします。

整備すべき項目

2.院内ルールづくり

医療従事者としてルールの遵守を徹底するためには、院内のルールを明確に示しておく必要があります。
当院にとって許されない行為は、入職時にきちんと説明しなければなりません。
また、個人情報の関係等、重要な事項については文書化することが必要です。

整備すべき院内ルール

3.スタッフとの対話実践(個々と全員)

良い人材育成を実践している医院では、スタッフとの関わり方における具体的なツールとして、スタッフとの対話で「リーディング(Leading)」「ティーチング(Teaching)」「コ ーチング(Coaching)」を効果的に活用しています。
スタッフ個々の育成目標に向かって、各自の成長意欲を促し、必要な知識・技術や価値観を適切な時期に示すことを繰り返し、スタッフ自身が主体的に目標を設定し、これを目指した行動計画を策定できるように促します。
また、個々ではなく、組織としてどう取り組んでいくかもポイントとなり、全体でのミーティングを設け、スタッフ全員の認識の確 認も必要となります。
全員の目標・目的が同じ方向を向いて、初めて組織力が向上・活性化することになります。

スタッフとの対話実践(個々と全員)

4.業務別応対のポイントと目的にそった教育研修

1.受付での応対

(1)受付業務の目的

受付は「医院の顔」です。競争が厳しくない時代は、予約受付も含めた「診療のための事務手続きを行う」のが主業務でした。
しかし、競争が激しくなると、できるだけ多くの患者さんに来院してもらわねばならない為、関係を強化して再来院につなげ、患者さん固定化していかねばなりません。

受付業務の目的

(2)受付担当者育成の考え方

受付担当者に限らず医療の場における応対の基本は、「患者さんの個性、病状に合わせた応対」が不可欠となり、患者さんの個性に合わせた個別対応が求められます。
マニュアルのみでの対応はきわめて難しくなる為、「目的」を明確にしたうえで、日常的なミーティングを通じて感受性教育と表現力の教育をしていくのが良いでしょう。
それも一方的な教育ではなく、スタッフ自身に考えさせ、学ばせることが重要です。
なぜそのような行動が必要になるのか、どういう目的があるのか、どういう表現をすればより患者が安心できるのか、患者さんは何を求めているのか等を明らかにしつつ、スタッフに考えさせ行動させることが大切です。

応対のポイント

2.チェアサイドでの応対

(1)歯科助手

(1)目的

歯科助手の仕事は、歯科医師の身近で「手足のように」診療の介助をすることがその主たる業務です。
それだけに歯科助手がうまく「あ・うん」の呼吸で機能していくと、治療を効率よく遂行できます。
そのためにも歯科助手の患者応対技術、ならびに治療中の患者さんへの心遣いが不可欠です。

歯科助手業務の目的 ①歯科医師の指示に従

(2)歯科助手育成の考え方

アシスタント業務は機械的なルーチンワークだけに、患者さんの笑顔やねぎらいの言葉を受けることにより、やりがいや意欲を駆り立てます。
したがって、歯科助手に対して「顔と相手の心にしみ込むような言葉遣いと心配り」を求め、患者応対の教育を徹底させていくことが重要です。
ただし、歯科助手としての技能を徹底的に磨きあげたうえで応対技術を身につけるという順番が必要で、未熟な段階で応対技術に入ると気が散って事故を起こす危険があります。
歯科助手と歯科衛生士のライバル意識は、それが良い方向に誘導する事でプラスになる事が多いです。そのために歯科衛生士の専門は十分尊重するが、患者応対は全く同一に評価し、よいものはよいと誉めるべきです。

(2)歯科衛生士

(1)目的

口腔衛生指導が業務の目的となりますが、指導して終わりになるものではありません。
歯科衛生士の指導の難しさは、まず、患者さんに理解させ、患者さん自らが自覚して行動を起こすという自発性を促すことが目的となっています。
歯科衛生士自身のやる気が旺盛すぎて、患者さんへのブラッシング等の指導時に強制してしまうケースが多々あります。
歯科衛生士自身のやる気が過剰になり過ぎて、患者さんのやる気が減退し、来院してくれなければ本末転倒になります。

歯科衛生士業務の目的

(2)歯科衛生士育成の考え方

業務に対する歯科衛生士自身の意見には徹底的に耳を傾け、院長としての意見を述べ聞き入れるものは聞き入れて本人の意思を尊重する姿勢は、絶対に必要です。
本人の意思に反して院長の指示に従わせることが不可欠になったときは、一言の簡単な説明にとどめず、徹底的に話し込んで本人を納得させる必要があります。
エネルギーが必要ですが、院長がそういう姿勢でなければ必ずやる気をなくします。

(3)チェアサイドでの応対のポイント

チェアサイドでの応対のポイント

■参考文献
『クリニックばんぶう(日本医療企画)』2011年5月号掲載 「プロフェッショナル受付スタッフの育て方」
『スタッフ教育 あなたならどうする?(デンタルダイヤモンド社)』稲岡 勲 編・著

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