改定率プラス 1.2%で決着2012 年介護保険制度改正のポイント

1.2012年介護報酬改定の全体動向

次期介護報酬改定 改定率プラス1.2%

政府は2011年12月21日、次期介護報酬の改定率をプラス1.2%と決定しました。
厚生労働省が求めてきたプラス2%から、下落する物価情勢を反映させる形で0.8%を引いた数字での決着となりました。
また、同時改定となる診療報酬は、全体で0.004%とわずかながらプラス改定を確保し、2回連続でのアップとなりました。
同12月22日厚生労働省は、ホームページで報道関係者向けに「診療報酬介護報酬改定について」を発表し、このうち介護報酬改定関連項目について下記のように整理しました。

次期介護報酬改定の概要

2025年を見据えた改正の位置づけと全体動向

2012年度の介護保険制度改正、及び次期介護報酬改定を4月に控え、新たに創設されるサービスの内容や、既存サービスの見直しや強化点が明らかになってきました。
前回2006年の改正と比較すると、新たに創設されるサービスは、「24時間対応型の訪問サービス」 と、小規模多機能型居宅介護支援に訪問看護を組み合わせた「複合型サービス」の2種類 にとどまるなど、次期改正の内容は小幅なものとなる見込みです。
一方で次期改正は、高齢化のピークを迎える2025年に向けた第一歩という位置づけとなっています。
厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」の実現を目指して、既存サービスの見直しが進められます。

2012年改正のポイント

(1)2025年を見据えたサービスの拡充

地域包括ケアシステムとは、「高齢者や要介護者が住み慣れた地域で生活を継続できるように、日常生活圏域(おおむね30分以内で移動できる小中学校区に相当)において医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスを一体的に提供する体制」と定義されています。
団塊の世代(1947~49年生まれ)の高齢化が一気に進む2010年から2025年にかけ、65歳以上の高齢者人口は約700万人増加し、こうした急速な高齢化は要介護者の急増を招く 結果となります。
特に、75歳以上の後期高齢者の増加は中重度者や医療ニーズが高い要介護者の生活を支える必要が高まります。
また、独居世帯や老老世帯および認知症高齢者の増加、大都市圏における急速な高齢化の進展といった問題にも対応していかなければなりません。

(2)居宅系は中重度者重視と自立支援がポイント

2012年度制度改正では、新たなサービスとして24時間対応の「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と、小規模多機能型居宅介護に訪問看護を組み合わせた「複合型サービス」が創設されます。
いずれも地域密着型サービスで、独居世帯や老老世帯の要介護者が重度化しても、在宅生活を継続できることを目的に設けられました。

居宅系サービス

(3)施設系は役割・機能が明確化

施設サービスについては、それぞれの役割・機能をより明確化します。
例えば特養は、重度者の終の棲み家として、ユニット化や看取りの機能を強化するほか、介護老人保健施設は在宅復帰のための中間施設として、リハビリ機能を拡充します。
介護療養病床は2017年度未の廃止に向けて、介護療養型老健施設などへの転換が促進されます。
一方、有料老 人ホームに関しては規制強化が進みます。
国交省は、高齢者住宅の中心を利用権方式の有料老人ホームから、2011年10月20日に制度化された賃貸借契約を主体とする「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)へと移行 を進めたい考えです。
そこで根拠があいまいな権利金の受領を禁じるなどの措置を講じ、既存の有料老人ホームは2015年4月から、2012年度以降に新設する有料老人ホームは当初から、権利金などが受領できなくなります。

施設系サービス

(4)介護職による医療行為を拡大

医療ニーズが高い要介護者の増加をにらみ、介護職員による喀痰吸引などの医療行為も一部解禁し、介護保険法と同時に「社会福祉士及び介護福祉士法」を改正し、介護福祉士や一定の研修を受けたヘルパーによる喀痰吸引と経管栄養を可能にしました。
次期介護報酬改定では、訪問介護の「特定事業所加算」や特別養護老人ホームの「日常生活継続支援加算」の要件などに喀痰吸引の要件が加えられるほか、訪問看護や通所リハビリに加算が新設される見通しです。

医療行為の一部解禁

(5)困難な財源の捻出と総報酬割の導入検討

厚労省は、社会保障・税一体改革成案に基づき、2015年までに順次実施する課題として、 「介護サービスの提供体制の見直し」と「負担能力に応じた介護保険料の見直し」を掲げ ています。
この財源確保策として検討されているのが、介護保険料への「総報酬割」の導入です。
これは、40歳以上65歳以上の被保険者が支払う介護保険料の徴収方法を見直し、現行の加入者数に応じた負担から、被保険者の総報酬額に応じた負担に改めるというもので、財源確保案の一つとして現在検討されています。

2.居宅系サービスをめぐる改正

企業においては、被災した生産設備の修繕、物流などのインフラ整備の進展、寸断されたサプライチェーンの復旧にも目途がつき始めました。
これらの特殊な設備投資により、4月以降、民間設備投資は若干回復したものの、まだ昨年対比プラスまでの状況にはなっておらず、設備投資は低い水準であったといえます。

訪問介護/定期巡回・随時対応型訪問介護看護

厚労省は、昨年10月31日までの給付費分科会で、訪問介護や適所介護などの居宅系サービスの見直し案を提示しました。
同10月17日に示された訪問介護の見直し内容は、(1)生活援助の時間区分を変更、(2)リハビリ職との連携を加算で評価、(3)2級ヘルパーのサービス提供責任者(以下、サ責)を抱える事業者に減算要件、(4)サ責の配置数を利用者数に応じた基準にする、という4点で す。

(1)ハードル高い短時間メニュー

2011年11月14日に開催された給付費分科会で厚労省は、上記4点に加えて「20分未満の身体介護」の創設を提案しました。
ただし、この短時間身体介護は2012年4月に新設する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」(以下、24時間訪問サービス)が普及するまで の「つなぎ」としての位置づけが強いと思われます。
20分未満の身体介護は、主に中重度者の頻回利用を想定したものですが、利用対象者や事業所の体制要件が厳格化され、厚労 省は、短時間頻回の訪問介護については新設する24時間訪問サービスで対応すべきという意向です。

訪問介護に関する改定案 ~身体介護が中心の場合の時間区分

(2)24時間サービスは人材要件を厳格化

4月に創設される24時間訪問サービスは、短時間の定期巡回型の訪問ケアを主体に、「訪問介護」と「訪問看護」双方を提供するものです。
厚労省は定期巡回と随時対応を含め、すべて包括払いにする報酬案を示しています。
要介護度に応じて訪問介護と訪問看護のそれぞれに包括報酬を設定し、訪問看護が必要な利用者には両方の報酬を算定する仕組みとしました。
昨年11月14日の給付費分科会では、当初示していた看護職員の配置数やオペ レーターの資格要件を見直し、いずれも当初案よりハードルを引き上げた形です。

居宅介護支援/介護予防支援

居宅介護支援と介護予防支援については、「自立支援型のケアマネジメント」の推進やケアマネジャーの質の強化、医療との連携促進などがテーマとして掲げられました。
昨年10月31日の給付費分科会で厚労省が示した案は、自立支援型のケアマネジメントの推進に関しては、現行の特定事業所加算(月300単位または500単位)により、引き続き質の高い事業所を評価します。
一方で、質の低い事業所に対するペナルティーも強化されます。
居宅介護支援事業所に 義務づけられているサービス担当者会議や、月に1回の状況把握(モニタリング)を実施していない場合には、現行では介護報酬を通常の7割に減算し、また減算が2ヶ月続いた場合は5割とする現行の運営基準減算を強化して、減算率を当初から5割に、また2ヶ月以上続いた場合は算定そのものを認めないように改めることが検討されています。

居宅介護支援と介護予防支援に関する改定案

小規模多機能型居宅介護/複合型サービス

2006年度に創設された小規模多機能型居宅介護は、地域包括ケアシステムを支える今後の主力サービスの一つと位置づけ、その普及促進の観点から見直しが図られます。
厚労省は昨年11月10日に示した見直し案で、「サテライト型事業所」の創設を提案しました。
本体事業所と一体的に運営する小規模事業所(サテライト)の開設を認め、サービスの普及拡大と人材の有効活用を図るというものです。
なお、小規模多機能型居宅介護と訪問看護を組み合わせた新サービス「複合型サービス」にも同様に、サテライトの開設を認める方向としています。

サテライト型事業所(小規模多機能型居宅介護)のイメージ

 

3.認知症対応型共同生活介護

11月14日の給付費分科会では、「認知症に対応した適切な介護サービスの提供」の方向性として、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)や小規模多機能型居宅介護、および24時間訪問サービスの基盤整備が掲げられました。
同時に示されたグループホームの見直し案にも加算の引き上げなどを盛り込み、サービスの強化が図られることになりますが、その内容は、重度者対応の強化と夜間ケア体制の充実が中心となっています。

グループホームに関する厚生労働省の改定案のポイント

3.施設系サービスに関する改正内容

介護老人福祉施設

介護老人福祉施設(特養)は、逆風の改定になる可能性が高くなっています。
2011年介護実調で収支差率が9.3%と高かったことや、政府の社会保障・税一体改革成案で地域包括ケアシステムの実現に向けて施設の重点化(重度者対応へのシフトと在宅への移行促進)が盛り込まれたことなどが主な要因です。
厚労省が昨年11月10日の給付費分科会で示した改定案には厳しい内容が多く、要介護度別の報酬適正化を目指す項目が挙げられました。
具体的には、重度者の受け入れ促進を図るために軽度者の基本報酬引き下げがあり、これはユニット型個室か多床室かを問わず、全体に共通した対応となりそうです。

介護老人福祉施設に関する厚労省の改定案のポイント
厳しい改定案の中でも入所者の重度化には介護報酬で対応する方針が示されており、医療提供体制の見直しはその一例となります。
現在、特養は指定基準で医師の配置が義務づけられ、外部の医師による入所者に対する訪問診療は、末期がん患者を対象とする場合に限られています。
これを末期がん以外のターミナルの入所者まで拡大し、医療提供体制を充実させる方向です。
ただし、その場合の報酬は医療保険で賄うこととなるため、中医協の了承を得ることが必要など、今後調整が続けられる項目です。
もう一つは口腔ケアと栄養管理の充実です。
両者とも重度化予防に欠かせない要素であるため、報酬で評価されます。
これは特養だけでなく、介護老人保健施設や介護療養型医療施設も同様の評価になります。

介護老人保健施設

老健施設については「在宅復帰支援施設」としての役割が強化される方向が明らかとなっています。
そのための筆頭に挙げられるのは基本報酬の見直しで、在宅復帰支援機能が充実した施設「在宅復帰・在宅療養強化型介護老人保健施設」(仮称)を新設し、既存の老健施設の報酬単価より高く評価するという内容です。
しかし、算定要件は厳しく、(1)直近6カ月間の在宅復帰率50%以上、(2)1カ月当たりの ベッド回転率10%以上、の双方を満たす必要があります。
介護老人保健施設における改正案のポイントは、下記のとおりです。

介護老人保健施設に関する厚労省の改定案のポイント

介護療養型医療施設

介護療養病床は2017年度末で廃止の方針が決まっているため、老健施設などへの転換促進を図る見直しが進められ、基本報酬は引き下げの方向で検討されています。
老健施設などへの転換を前提に、人員配置基準を一部緩和している「経過型介護療養型医療施設」についても、2011年度末までの期限を6年延長する方針である一方、2012年度以降の新規指定は認められません。

介護療養病床に関する厚労省の改定案のポイント

特定施設入所者生活介護

特定施設入所者生活介護は、在宅での限界点を高めるという地域包括ケアシステムの方針に沿った改定内容になると予測されます。
具体的なものとしては、昨年11月1日の給付費分科会の厚労省案に「看取り介護加算」の新設が盛り込まれたほか、在宅で要介護者を支える家族のレスパイト(休息)を確保するため、空室の短期利用を認める案も提示されています。
さらに、基本報酬の見直しも提案され、要支援と要介護の介護報酬の適正化が図られる見通しとなっています。

特定施設に関する厚労省の改定案のポイント

■参考文献
日経ヘルスケア12月号 特集記事「ここまで分かった2012年介護保険制度改正」

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