機能分化・連携の推進と在宅の充実 次期診療・介護報酬 改定の論点

1.医療・介護を取り巻く状況と改革の方向性

次期改定に向けた論点の背景

2012年度診療報酬・介護報酬同時改定に向けて、10月21日、中央社会保険医療協議会と介護給付費分科会との合同打ち合わせが開催されました。
この会合の中で、厚生労働省は、「医療・介護施設の機能分化と連携の推進」、「在宅医療・介護の充実」を論点として示しました。
本章では、示された論点の背景に何があるのか、その点について解説します。

(1)人口の減少に加え少子高齢化が一層加速

日本は、2005年をピークに既に人口減少に転じ、今後2015 年を境に世帯数が減少しいきます。
この間に少子高齢化は加速し、2050年の日本人の平均年齢は56.2歳に達しているという調査結果があります。
つまり、借金は増え、その返済は若い世代ほど増え続ける一方で、人口は減少し、国の稼ぎ(GDP)も減るという状況が迫っていることが、医療・介護の機能分化を図り、連携の推進が急務とされる大きな要因です。

人口推計

(2)高齢者単身世帯の増加

高齢者人口の増加に伴って、高齢者単身世帯の割合も増加し、2007年(平成19年)のデータでは既に23%を超えていることから、「老いと暮らし」に関する問題も深刻さを増しています。
さらに、介護を必要とする高齢者単身世帯も増加を続けています。
こうした状況から、在宅医療・介護の充実を論点にすることが求められているのです。

高齢者単身世帯の増加

(3)増加する死亡者数と看取り先の確保

2010年に1,192千人であった死亡者数は、2030年には1,597千人となり、実に40万人以上増加すると予測されています。
社会の高齢化とともに急増する死亡者をどこで看取るかという問題を考えると、現状のままでは看取り先の確保が困難になるという問題があります。
現在は、多くの方が病院等の医療機関で亡くなっていますが、今後は自宅で死を迎えるケースが増えてくることを想定しなければなりません。
このことから、在宅医療の充実が論点として挙げられています。

死亡場所別、死亡者数の年次推移と将来推計

環境変化に対応した改革の方向性

(1)医療・介護サービスのネットワーク構築

こうした環境の変化に対応するためには、医療と介護のネットワークを構築し、急増する高齢者を地域で支える仕組みづくりが必要です。
医療・介護の提供体制においては、機能を分化し、重層的に住民を支える医療・介護サービスのネットワーク構築を目指すという方向性を示しています。

医療・介護の提供体制 ~2011年6月2日第10回社会保障改革に関する集中検討会議より

(2)医療・介護機能再編

高齢化の進展に対応するためには、医療・介護機能再編がポイントとなります。
厚生労働省は、患者ニーズに応じた病院・病床機能の役割分担や、医療機関相互および医療と介護の間の連携強化を通じて、より効果的・効率的な医療・介護サービス提供体制を構築するという改革の方向性を示しています。

改革の方向性

2.診療報酬改定の論点と最近の動向

次期診療報酬改定の論点

10月27日に開催された第22回社会保障審議会医療部会において、次期改正の論点及び具体的方向性が示されました。
今後、この方向性に基づいて議論が進められます。

(1)基本的認識の共有

次期診療報酬改定について、以下の基本的な認識を共有することが案として示されました。
その主要なポイントは、次のとおりです。

基本的認識の共有

(2)改定の視点について

前回2010年度報酬改定の基本方針では、改定の視点について、(1)充実が求められる領域を適切に評価していく視点、(2)患者から見て分かりやすく納得でき、安心・安全で生活の質にも配慮した医療を実現する視点、(3)医療と介護の機能分化と連携の推進などを通じて、 質が高く効率的な医療を実現する視点、(4)効率化の余地があると思われる領域を適正化する視点、の4つに定めました。
厚労省は、これら4つの視点を次期報酬改定の基本方針でも継続するよう社会保障審議会の医療保険部会に提案し、具体的な検討の方向性を論点として提示しました。

改定の視点について

(3)具体的な次期改定の方向について

今後、重点的に取り組む議題としては、下記の項目が挙げられています。
医療従事者の負担軽減については、今後も救急、産科、小児、外科等の急性期医療を適切に提供していくための重点取り組みに設定しています。
医療と介護の役割分担の明確化については、介護報酬との同時改定を踏まえ、連携体制強化の推進と在宅医療の充実に向けた重点取り組みとなっています。

具体的な次期改定の方向について

厚生労働省からの提案事項

10月26日に開催された中央社会保険医療協議会総会において、厚生労働省は、生活習慣病対策やがん対策について、いくつかの提案を行いました。
主なポイントを以下に整理します。

(1)診療報酬算定要件へ「屋内禁煙」の組み込み

厚生労働省は、がんや脳卒中、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など生活習慣病対策の一環として、これらに関連する診療報酬点数の算定要件に「屋内禁煙」を組み込むことを中央社会保険医療審議会に提案しました。
2008年度現在、病院による屋内禁煙の実施率は63.8%にとどまっており、診療報酬上の対応によって、屋内での全面禁煙を促す考えです。
病院だけではなく、診療所による屋内禁煙も促したい考えで、厚労省は大半の医療機関が該当するとみています。

(2)外来放射線治療における「毎回診療」を緩和へ

現在、放射線の照射後に医師が毎回診察を行うのが前提となっている外来放射線治療について、患者の全身状態が良好な場合に限り、看護師や放射線技師らのチームが毎回観察して医師に報告すれば、「週1 回以上」の診察でも関連の診療報酬の算定を認める案を提示しました。

主な要件

3.介護報酬改定の論点と直近の検討項目

次期介護報酬改定の論点

介護報酬改定については社会保障審議会介護給付費分科会において検討が続けられており、10月7日の会合で論点が整理されました。

(1)居宅サービス・地域密着型サービスに関する項目

居宅サービス・地域密着型サービスの基準・報酬については、以下のような基本的考え方を実現するという観点に立って検討されます。
主なものを下記に整理しました。

居宅サービス・地域密着型サービスに関する項目

(2)介護保険施設サービス等

施設サービスの論点は、下記のとおりです。
介護関連3施設に加え、特定施設、高齢者住宅について論点が整理されています。

介護保険施設サービス等

(3)介護人材の確保

介護人材の確保については、介護職員処遇改善交付金と地域区分が論点となります。
2011年度末を期限として実施されている処遇改善交付金については、継続するのか本体に上乗せするのかについて検討が行われており、今後の動向が注目されています。

介護人材の確保

介護報酬改定に関する直近の議論

介護報酬改定については、社会保障審議会介護給付費分科会において具体的議論が進んでいます。
10月31日の会合では、通所介護、リハビリテーション、居宅介護支援・介護 予防支援の基準・報酬について、次のような主要項目が議論されました。

(1)通所介護の基準・報酬

通所介護については、基本報酬における加算の算定状況及び業務の実態を勘案した必要な見直しについて検討されています。

通所介護の基準・報酬

(2)リハビリテーションの基準・報酬

通所リハビリにおける医療の必要性の高い利用者の受け入れに対する評価について、下記のような検討がされています。

リハビリテーションの基準・報酬

(3)居宅介護支援の基準・報酬

居宅介護支援については、自立支援型のケアマネジメントの推進、医療と介護の連携の強化、地域包括支援センターの機能強化について議論が行われています。
自立支援型のケアマネジメントの推進については、下記の案が示されています。

居宅介護支援の基準・報酬

■参考文献
MMPGメディカルウェーブ №3511(2011.10.28)

この記事をPDFファイルでダウンロードする