地域包括ケアに対応 介護との 連携・協働 ネットワーク

1.「地域包括ケア」で国が目指す方向性

高まる医療・介護連携の重要性

(1)高齢者人口の増加と介護保険を取り巻く状況

現在、様々な審議会で、75歳以上高齢者が急速に増加することに伴う医療費や介護費用の増大を、いかにして経済社会全体として吸収可能なものにしていくかということが議論されています。
下記の表のとおり75歳以上高齢者は、2025年には全人口の18%を超える見込みとなっています。
これにより、認知症高齢者、および単身・夫婦のみの高齢者世帯の増加が進み、さらに疾病構造の変化に伴って、介護に対するニーズは増加します。
高齢者人口が増えることは、そのまま医療サービスを受給する患者もまた高年齢化することを意味し、同時に介護を必要とする高齢者でもある状況となります。
単身や夫婦のみの高齢者世帯の増加は、急性期疾患で入院治療を終えても、自宅での療養生活は介護保険サービスなど家族以外の支援が不可欠な環境にある患者の割合が増えるということを意味しています。

75歳以上高齢者が全人口に占める割合推移の予測

つまり、自宅や施設で介護保険サービスを受けながら、在宅医療のケアも継続する患者の割合が増えるわけですから、地域医療の担い手である診療所を中心とする医療機関も、介護との連携が今後より重要になるといえるでしょう。

(2)在宅医療からみる介護連携

来年の診療報酬改定は、3年に一度実施される介護報酬改定と同時に行われる予定であり、この中でも、国が推進する「地域包括ケアシステム」の実現に向けて、医療・介護分野双方の役割と機能のあるべき姿に応じ、適正な財源の配分が検討されています。
そして、この「地域包括ケアシステム」の実現には、医療と介護のシームレスな連携とともに、生活支援サービスも合わせた複合的なネットワークの構築が求められています。
つまり、地域医療を支える診療所にとっては、在宅患者の療養支援に介護との連携が不可欠になっています。
しかし、自身で在宅医療や介護事業に携わっていない医療従事者の中には、介護に対する知識や視点が不足しているために、介護とのスムーズな連携が構築できていないと感じているケースも多いのです。
その理由としては、次のようなケースが挙げられます。

医療と介護が円滑に連携していないケース

地域包括ケアシステムが示す医療・介護の役割

(1)一貫したケアを提供する「地域包括ケアシステム」の概念

医療サービスを必要とする患者の高齢化は、そのニーズの高まりに必ずしも医療機関が十分にこたえられなくなってきているという新たな問題を生じさせました。
入院患者について、医療の必要度と要介護度を測定して診療報酬を配分したり、居住系サービスの充実によって社会的入院を解消する施策が実施されてきましたが、在宅療養を支援するうえで、実際に医療と介護を完全に分離する考え方は、地域で暮らす患者や介護サービスの利用者 にとって、望ましい姿ではありません。
高齢化社会の将来を見据えて示された「地域包括ケアシステム」は、医療と介護の連携強化等によって、医療から介護までを一貫して提供するネットワークなのです。。

地域包括ケアシステム構築の考え方

経済産業省が公表した「社会保障改革ビジョン~経済成長と持続可能な社会保障の好循環の実現~」においても、「医療提供体制の重点化」の項目で、地域包括ケアシステムを実現すべきという記述があります。
これは、社会保障制度の維持という観点から、その給付のあり方について医療・介護分野における具体的な改革アイディアとして示されているものであり、その点からも民間サービスの創出等によって医療・介護サービスの今後を検討するにあたって、重要な施策として位置づけられていることがわかります。

(2)介護保険制度見直しと在宅医療ケアの将来像

2012年度に施行される改正介護保険法は、「高齢者が可能な限り住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営む」ために、介護サービス基盤を強化することを目的としたものです。

介護保険制度改正の基本的考え方
また、地域包括ケアシステム実現に向けて、厚生労働省は、高齢者住宅の整備にも取り組んでいます。
高齢者住宅に医療・介護サービスを組み合わせ、医療必要度や要介護度が増しても、住み慣れた地域・在宅での生活を継続できる環境づくりを図るねらいです。
厚生労働省と国土交通省の連携により、2011年4月27日に成立した「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正法によって、新たに「サービス付高齢者向け住宅」制度の創設が決定し、続く7月26日には同10月20日に施行されることとなりました。
さらにサービス付高齢者向け住宅の登録基準案のうち、サービスを担うスタッフの資格要件が定められ、具体的には次のような者とされました。

サービスを担うスタッフの資格要件
こうした生活支援サービスにおいても、医療との連携が重視されており、医療機関として今後協力・連携先としてサービスを提供するケースも増えてくると推測されます。
また、介護サービスのサービス別受給者をみると、居宅サービス受給者の増加率は203%、 施設サービス受給者の増加率は62%を示しています(各年度介護保険事業状況報告より算 出)。
2010年4月サービス分では、約294万人が居宅サービスを利用して在宅介護を受けていますが、この数値も2025年には430万人に達すると推測されています。
これらの居宅サービス利用者を支援する医療機関として、その担い手の診療所は、患者とその家族を支える医療の充実と介護職との連携が求められています。

介護サービスの種類別受給者数の推移(2000年~2010年)

2.介護サービスの理解と「医行為」範囲の理解

在宅医療に関わる診療所が知っておくべき介護サービス

少子高齢化社会の進展に伴う社会保障給付の増大の懸念を背景とし、ドイツの制度をモデルとした日本の介護保険制度は、2000年4月にスタートしました。
介護保険制度導入の主要な目的には、退院後の受け皿を確保できない長期入院患者、つまり社会的入院の解消があり、それとともに自宅での療養生活を促す意図がありました。
これが現在まで、国と厚生労働省が推進する在宅医療支援につながっており、同時に、在宅医療を支える役割の中心として期待されていたのは、地域医療を担う診療所です。
したがって、在宅患者を地域が支える円滑な仕組みを構築するにおいては、介護の果たす役割とサービスに関する知識を備えておくことが、医療・介護間の相互理解と併せて不可欠なものだといえます。
ここでは、介護保険で利用できるサービスについて確認します。

介護保険制度によるサービスの種類(在宅・施設)

(1)自宅で受けられる介護サービスの種類

定期的な訪問により提供するサービス

(2)施設通所により受ける介護サービスの種類

施設が提供するサービス
このほか、認知症対応型通所介護(認知症高齢者を対象とした小規模デイサービス)、認知症対応型共同生活介護(軽度の認知症高齢者が共同生活を送る施設:グループホーム)等があります。
在宅医療の位置づけとして、施設入居者への訪問医療などの際に、これらの区分を押さえておくとよいでしょう。

(3)介護保険外の主要なサービス

介護保険サービスの種類は、改定を重ねるごとに充実してきたものの、利用者のニーズも多様化してきたために、全額自己負担で介護保険適用外のサービスを提供している事業者も登場しています。
競合する事業者の努力により、サービスの質は向上しつつあります。

近年ニーズが高い主な保険外サービス
全額自己負担の介護保険外サービスは、患家の経済的事情と関わる選択肢ではありますが、介護で体力的、精神的疲労を抱えている患者の家族にとってのレスパイトケアに対するニーズは高まりをみせています。
ケアを必要とする患者だけではなく、患者の家族の支援も担う「かかりつけ医」であれば、当然押さえておくべきサービスのひとつです。

介護職が実施できる行為を理解しておく

患者に対するケアを実施する際には、その作業が「医行為」に該当するかどうかによって、介護職が実施できる範囲が定められています。
それは、医師法および歯科医師法、保健師助産師看護師法その他の関連法令によって、これらの国家資格を有しない場合には医行為を行うことが禁止されているためです。
介護保険法の施行後しばらくは、医行為の該当性は個人の判断に委ねられ、国の見解も 「個々の行為の態様に応じ個別具体的に判断する必要がある」と示されていました。
この結果、実際に在宅ケアを提供する現場での介護職に混乱を招いた原因になっていました。
この状況を解消すべく、2005年7月に厚生労働省が医行為の範囲を明示する通知を発し、介護職が実施できる行為を明確にしました。
これを契機とし、介護職はケアの一環として、様々な行為を行うことができるようになっています。

介護職が実施できる行為 ~厚生労働省通知による医行為の範囲の明示
厚生労働省医政局通知は、一定の条件を満たした次のような行為は医行為ではないと示しました。

原則として医行為ではないと考えられるもの
また、2012年6月の介護保険法改正により、介護職員による喀痰吸引と経管栄養も認められるようになっています。
在宅医療を担う医師は、上記のような医行為の範囲を理解しておくと、チームでのケアの際にも、介護職との役割分担を円滑に進めることができ、患者や利用者によって最適なケアの提供の実践につながるはずです。
医療と介護が在宅患者のケアに対して担う役割と機能は異なりますが、患者を中心としたネットワーク上にあることで、その円滑な連携と協働が不可欠です。
医療者側も介護に対する知識と理解を持ち、介護職との関係を深めることがますます重要になっています。

3.医療と介護のシームレスな連携構築のポイント

医療と介護の役割・機能分化と連携の取り方

(1)介護との「区分」から「連携」への移行

介護保険制度が施行となった2000年度以降、医療と介護が重なり合う部分について、その役割は明確に区分されました。
その結果、医療機関は医療分野のみ、そして介護事業者は介護に関連することのみという意識が強まり、本来であれば適切な情報の提供・共有によって、患者にとって必要な情報とサービスの提供が滞る場面が生じているという問題が指摘されていました。
しかし、医療者の立場で患者として介護サービス利用者に関わり、在宅で療養を続ける患者の生活全体を俯瞰できるのは、かかりつけ医となった診療所だからこそ可能だといえるでしょう。
介護との連携・協働を円滑に進めるためには、基盤となるネットワークを構築する必要があります。
そして、患者個々に必要なケア提供にとって、カギとなる存在を的確に把握しておくことが重要なポイントです。

医療と介護

(2)経営的側面からみる連携の重要性

要介護状態が比較的軽度の患者に対しては、介護事業者がサービス利用者に訪問診療の利用を働きかけ、利用者がその価値を認識することによって、導入を決めるケースは少なくありません。
高齢化と疾病構造の変化により、将来的に在宅ケアのニーズが必要になる潜在患者数は極めて多いと予測されていますから、在宅医療を提供する診療所等医療機関との連携により、退院後に地域に戻り、自宅で療養生活を送りながら在宅ケアを受ける患者も今後はより増加傾向を示すはずです。
自宅で療養生活を送りたいという希望を持つ患者にとって、在宅ケアの具体的計画が示されることは、その案を提示した介護事業者にも、医学的支援を行う医療機関に対しても、深い信頼と関係を築くきっかけになるはずです。
そしてそれは、地域医療を担う診療所として安定した経営を維持できる基盤でもあるといえます。
したがって、在宅医療に取り組む診療所にとって、介護との連携強化は地域密着の実現に大きな寄与となる可能性が高いのです。
診療所、医師が地域の介護事業者と相互に協力し、患者の生活を支援する取り組みは、今後の診療所経営にとって大きな要素であるといえるでしょう。

介護事業者が考える訪問診療にふさわしい医師の条件

診療所と介護の円滑な連携・ネットワーク構築

(1)ケアマネジャーとの関係づくり

(1) キーパーソンとの連携強化

介護サービス利用者のケアプランを作成し、手続に関わる業務を行うケアマネジャーは、在宅療養中の患者にとって身近な存在であり、そして患者をめぐる情報交換の中心を担う立場でもあります。
そのため、医療機関側から連携を取る際にも接触する機会が多いため、ケアマネジャーの仕事を理解することによって、在宅の高齢者ケアにとって良い環境を整備する近道になるはずです。

診療所とケアマネジャーの関係を中心とする連携ネットワーク

(2)良好な関係づくりのポイント

在宅ケアは、医療と介護の連携によるチーム医療と位置づけられます。
介護に関する知識が不足していると、患者や家族に対して医療・介護両面からのアドバイスが有効な場合にも、介護から距離を置いてしまうことになり、スムーズな連携は難しくなります。

介護連携先とのコミュニケーション強化に必要なツール

 

(2)チームとして機能するための連携強化

(1)訪問看護ステーションとの密接な情報交換

在宅患者の中には、自宅での生活支援が重要視されるケースもあります。
このような場合、診療所としては、医学的なアプローチで患者の生活動作を支えることを大きな目標として取り組むことが求められます。そのために、訪問看護ステーションとは必要な情報と勉強会などの機会を通じ、医療の立場から必要なリハビリテーションの実施を働きかけるなど、患者をサポートする一つのチームとして目標到達まで最適なケア提供に取り組む姿勢が必要です。

チームとして機能するための連携ネットワーク

(2)チームが密に関わりあうためのコミュニケーション

一人の患者を医療と介護で支えるケアを提供するチームとしてとらえ、真の連携を機能させるためには、相互の果たすべき役割と仕事の内容を十分に理解することが基盤となります。
診療所からみた「在宅医療」と介護職が行う「在宅介護」の関わり合いによって、患者を支える「在宅ケア」が最大に機能すると認識し、「なぜ医師はこのような診療を行っているのか」「介護職は何を目標に設定して療養計画を立てたのか」といった疑問が生まれないように、よく話し合い、それぞれの立場と役割を尊重したコミュニケーションが重要です。

■参考文献
『社会保障改革ビジョン ~経済成長と持続可能な社会保障の好循環の実現~』 経済産業省 編(2011 年7月)
『クリニックばんぶう(日本医療企画)』(2011年8・9月号)

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