地域完結型社会への転換 介護保険制度改革の将来展望

1.社会構造の変化が促した政策転換と社会課題

1.人口構造の変化と社会保障制度改革

日本における65歳以上の高齢人口比率は、既に総人口の4分の1を超えています。
近年の日本の人口構造の変化をみると、高齢化のみならず、少子化の影響により人口減少社会へ移行しているといわれます。
その結果、現在は1人の高齢者について、20~64歳人口の2.6人で支えている社会構造ですが、少子高齢化が一層進行する2060年には、高齢者1人を1.2人で支える構造に推移すると予想されています。

人口ピラミッドの変化(1990~2060年)
これまでの高齢者介護をめぐる諸制度は、施設を例に挙げると、家族介護を原則とし、これを受けられない少数派に対して、社会のセーフティネットとして設定された社会福祉事業に位置付けられるものです。
しかし、現代の社会構造では家族介護が困難であることが多数派となり、このセーフティネットを全員が使うことは不可能になった状況のなかで、制度設計そのものを変える必要に迫られ、本人が在宅サービスを使用するための介護保険事業として、新たな制度への転換がはかられたのです。

「団塊の世代」の高齢化と「若者世代」の減少

子供の数は減少する半面、平均寿命が延びて退職してから長く老後を送る高齢者が増えました。
さらに、2015年までに「団塊の世代」が全て65 歳に達して高齢者となることにより、これまでの支える側から支えられる側に立場が変わります。
一方、支える側の若者世代は、 2011年からの4年間で448万人も減少し、高齢者介護の基盤が急速に弱まってくることから、社会保障制度改革は早急に推進すべき状況であるといえます。

2.利用者ニーズの変化と介護保険制度

(1)家族介護から社会介護へ

老人福祉法(昭和38年)第11条2項(旧3項)には、特別養護老人ホームに収容する対象を「65歳以上の者であって、(中略)常時の介護を必要とし、かつ居宅においてこれを受けることが困難な者」と規定していました。
つまり、施設は在宅介護生活が困難なために収容するという、本人の理由ではなく介護者の事情で措置されるところといえるでしょう。
これを踏まえると、現在は社会の家庭状況が変化し、同居家族はいても介護を担う家族はいないため、在宅も施設と同様に24時間連続の介護サービスを定額で提供する必要性が生じている状況です。
そのため、家族介護をベースとしていた介護保険制度のあり方も、今後変えていくことが求められています。
つまり、介護保険の対象者の範囲(=間口)を狭めるなど、施設と在宅の双方で本人が望むサービスを提供できる制度に変えていかなければならないのです。

介護を支える仕組みが変わる

(2)2015年の高齢社会像

2015年には、「ベビーブーム世代」が前期高齢者(65~74歳)に到達し、2025年には高 齢者人口がピークを迎えます(推計3,500万人)。
併せて、認知症高齢者も同年には462万人に達すると推計されているほか、高齢者独居世帯が約570万世帯になるとされ、その中で介護保険制度も改正を経ています。

2006年介護保険改正の視点

また、これまでは地方の過疎地で生じていた高齢化問題は、今後急速に首都圏をはじめとする都市部に移ります。
高齢者の住まいをめぐる問題も含めて、高齢化問題は従来と様相が異なる状況になると推測されています。

抱える課題と今後の方向性

2.2025年を見据えた社会保障改革の論点

1.高齢者の生活環境に関するニーズと対応の現実

(1)高齢者の住まいをめぐる課題

独居の高齢者世帯は増加し続けており、2015年には高齢者世帯(約1,700万世帯)の3割以上(約570万世帯)を占めるとみられています。
これは、介護を必要とする状態になった場合でも、介護の担い手となる家族がいない高齢者が潜在することを意味しています。
しかし、全高齢者における介護施設・高齢者住宅等の定員数割合を諸外国と比較してみると、日本は合計でわずか4.4%(2005年当時)に過ぎず、実際に独居高齢者が入居できる施設や住居は非常に限られている状況にあります。

サービス付高齢者向け住宅が必要な理由 ~65歳以上人口に占める各施設・住宅の割合

仮に高齢者施設に入居した場合には、それまで暮らしてきた生活環境や地域を離れざるを得ないケースもたびたび聞かれるほか、住環境そのものについても、多床室での共同生活等で低下する可能性があります。
介護等サービスを提供する高齢者のための住宅は、こうした住環境に対するニーズから、大きな期待が寄せられています。

(2)在宅医療連携の重要性

前述のように、サービスの連続性を重視するようになり、これまでの「不足・部分的な介護」から「暮らしの介護」を求めるようになってきました。
さらには、独居高齢者の増加によって、いわゆる「おひとりさまの介護の時代」を迎えていることから、高齢者がひとりで地域社会の中で生活と人生を継続していくために必要な機能とは何かを考える必要に迫られています。

高齢者ニーズの変

化サービス付高齢者向け住宅は、こうしたニーズに対応できる部分が多い住まいの類型ですが、どちらかといえば地方よりも都市型に適応すると考えられます。
高齢者が住み慣れた自宅で看取りを希望するにあたっては、終末期までの日常生活あるいは療養生活を支え、安心を提供する「かかりつけ医」の存在が不可欠です。
その上で、医療と介護が連続するサービスとして受けられる仕組みとして、24時間365日の訪問看護および介護、家族がいなくても支える環境にある住まいの確保、そして1日3食365日の配食が必須だといえるでしょう。
つまり、このケアの仕組みこそが「地域包括ケアシステム」のあり方なのです。
しかし、 地域包括ケアシステムは、介護保険制度の枠内で完成するものではありません。
介護ニーズと医療ニーズを併せ持つ高齢者を地域で支えていくためには、在宅医療との連携を強化することも重要です。
医療・介護サービスが地域の中で一体的に提供されるようにするためには、医療と介護のネットワーク化が必要になります。

地域で高齢者を支える介護サービスの具体例

(1)社会保障給付と財源の状況

社会保障給付費は、平成21(2009)年度には98.7兆円に上り、うち年金が51.5兆円、医療が31.0兆円、介護・福祉その他16.2兆円となっています。
一方で財源は、労働力人口の減少等により社会保険料収入は横ばいで推移し、平成21(2009)年度では56.8兆円で、社会保障給付費と社会保険料収入の差額は拡大傾向が続いています。
この社会保障給付費と社会保険料収入の差額分は、国や地方自治体の公費によって賄われており、うち国の公費負担分(25.8兆円)は一般会計の社会保障関係費(24.8兆円)に相当します(他、恩給関係費0.8兆円)。
社会保障関係費は、国の税収と将来世代の負担となる公債金収入(借金)を財源としていることから、公費負担分は今後も増大していくと予想されます。

社会保障給付のファイナンス
社会保険料収入の伸びは今後期待できない中で、介護サービスについても医療と同様、重点化と効率化を図る必要があります。
介護を要する高齢者が増加していく中で、特別養護老人ホームは中重度者に重点化を図り、併せて軽度の要介護者を含めた低所得の高齢者の住まいの確保を推進していくために、入所者は要介護3以上を要件とする方針が、また デイサービスについては、重度化予防に効果のある給付への重点化が求められます。

(2)2025年の社会保障制度のあり方

高齢者が疾病を抱えても、自宅など住み慣れた生活の場で療養し、自分らしい生活を継続するためには、医療・介護の関係機関の連携のもと、包括的で継続的な在宅医療と介護の提供を行うことが求められます。
これが、2025年までに実現を目指す社会保障制度の姿だといえます。
そのため、もはや家族介護で在宅介護は不可能であるという現実を正しく認識したうえで、高齢者及び認知症ケアを地域社会で、すなわち在宅で実践するための医療・介護ネットワーク構築が必要になっています。

介護の視点で見る社会保障制度改革の論点

上記論点の一つに挙げられる認知症ケアは、対象者に対するサービスを全て施設が担うことは、極めて困難な状況になりつつあります。
しかし、認知症ケアを在宅で行うためには、安心と安全を確保するために、定期巡回・随時対応型訪問介護・看護などをはじめとする複数のサービスの組み合わせにより、連続した生活支援機能を強化することが必要です。
厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」は、高齢者や認知症ケア対象者が今の暮らしを継続するために、24時間365日連続する支援サービスを提供する地域社会を構築することを意味しています。

3.地域社会での生活を可能にする介護サービス

1.地域での生活を支える介護サービスの構築

(1)新たな認知症ケアの考え方

高齢者世帯が急増している中で、夫婦を別々にケアすることは必ずしも良い結果ではありません。
例えば、妻が認知症を発症した場合であれば、妻は知らない社会(グループホーム)に移動することでますます混乱をきたし、夫は役割を喪失し、孤立してしまう可能性もあります。
そこで、夫婦が共に住み替える選択肢を提示することが重要になります。
妻の介護はグループホームで提供し、夫は併設・隣接のバリアフリー住宅(在宅支援型住宅)で生活することで、認知症の妻には生活の安心を、夫には役割を、そして介護の責任はグループホームが担当する(あるいは共にグループホームで暮す)というスタイルの生活を組み立てます。
さらに、近隣に小規模多機能型居宅介護サービスがあれば、将来的に夫も要介護状態になった場合であっても、そこでの生活は可能になり、夫婦の生活を最後まで保障することができるのです。

新たな認知症ケアの姿

(2)認知症施策推進5か年計画オレンジプラン(平成25年~29年)

平成24年6月18日、厚生労働省「認知症施策検討プロジェクトチーム」(主査:藤田厚生労働大臣政務官)において、「今後の認知症施策の方向性について」が取りまとめられ、公表されました。
これらの施策を推進する5か年計画が「オレンジプラン」とよばれるものです。

オレンジプラン(平成25年~29年)の概要、地域完結型社会における介護サービスの考え方

2.地域包括ケアシステムの意味

介護保険制度については、地域包括ケアシステムの構築こそが最大の課題です。
これまでの介護保険制度は、在宅と施設の負担が不均衡でしたが、小規模・定期巡回・複合型サービスによって、在宅も定額制に変更することができます。

(1)地域社会で高齢者・認知症ケアを実践する

施設は、通所介護・訪問介護・訪問看護・配食サービスを効率的に提供するために、利用者を集約したものと考えることができます。
そして、地域完結型社会として、これらのサービスを地域に切れ目なく提供する仕組みが地域包括ケアシステムだといえます。
介護サービスの効率化・重点化をめぐっては、地域包括ケアシステムの構築を通じて必要な介護サービスを確保することとされています。

地域完結型社会のケアシステムイメージ

上記イメージ図のように、日常の暮らしの中に、定額制の24時間365日連続するケアサービスと在宅療養支援診療所などの医療機関があれば、施設や病院に行かなくても生活支援は可能(施設の枠を超えて、機能を地域に展開する)です。
併せて、認知症に対する診断・治療とフルタイム・フルサービスを連携することによって、認知症の高齢者も地域社会で生活できる環境づくりができると期待されます。
これからの地域包括ケアは、介護中心ではなく、人の生活・人生・暮らしを中心として実践していくものになります。

(2)地域社会を一つの施設・病院と考える

少子高齢化の進展により、介護サービスのマーケットは拡大し続けていますが、支え手である人材は減少しています。
これは、介護保険においては、事業所に人員配置基準を求めて報酬を算定していながら、現場には人員の基準がないことが原因の一つとなっています。
しかし今後、地域社会をひとつの施設・病院として考え、いわゆる「介護付きの地域社会」としていくためには、同じ地域の対象者は同一スタッフが全て対応し、かつ包括的な定額報酬とすることで、介護人材の大幅増加が期待できない状況であっても、可能になると考えられます。

地域社会がひとつの「施設・病院」 = 介護付きの地域社会の形成

施設は、通所介護・訪問介護・訪問看護・配食サービスを効率的に提供するために、利用者を集約する仕組みだといえます。
よって、これらのサービスは、施設の枠組みを超え、施設外で同じサービスを提供することができるはずです。
しかし、現実では事業者単位で基準配置を行っていることで、事業者の数だけ利用者が生まれる事態となっています。
これは、今後目指すべき介護サービスの効率化にとって排除することが求められます。
個々の利用者に対する提供サービスとスタッフを共有することで、生活支援を基本とする社会介護の目的として、連続する支援体制の実現を達成することが可能になります。
介護保険制度改革は、こうした地域社会づくりを目指しているものです。

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