高齢者ケアの将来とは 慢性期医療の課題と今後の展望

1.高齢者ケアをめぐる医療・介護政策の変遷

高齢者介護は誰が担ってきたのか

高齢者が疾病や加齢によって介護を必要とする状況になった場合、その担い手はこれまでは主に患者(高齢者)の家族でした。
介護保険制度の導入以降は若干変化もあるようですが、配偶者間を除くと、日本においては、嫁(息子の妻)が高齢者介護を支えてきたという経緯があります。

高齢者の介護と介護提供者との関係(1990年)
このように家族の関係や情を基盤とする介護の提供(いわゆる家族介護)は、提供者側の負担や不安も大きく、長期間継続することは非常に困難な状況になります。
さらに、家族だけで行う介護の範囲には限界もあり、国や地方自治体による積極的な関与への期待も生じていました。
高齢者ケア政策は長く福祉の一環として行われ、老人医療費無料化など医療の視点に偏重して展開してきましたが、高齢化の進展とともに、福祉から保険へと大きく舵を切ることとなったのです。

措置・福祉から保険へ移った高齢者ケア施策

高齢者医療の拡充は、社会の高齢化に伴って医療費の増大を招いたことから、「措置制度」 を起点とする施策方針を見直し、医療と介護の境界線を明確化したうえで、新たに当事者にも応分の負担を定め、契約に基づいて介護サービスを提供する、という介護保険制度が導入されました。

(1)高齢者ケアに関する政策の移り変わり

高齢者医療に係る主な政策

(2)診療報酬改定にみる高齢者ケア政策の変遷

診療報酬においても介護を念頭に置いた評価項目が設けられていましたが、介護保険制度導入以降は、改定の度に医療保険と明確に区分する政策誘導が行われています。

高齢者ケアと関連する診療報酬:包括化と慢性期医療評価の見直し
このような政策を推進してきた厚生労働省は、現在、医療・介護サービス提供体制にかかる改革の方向性として、「2025年頃までに現在指摘されている課題を解決し、機能分化と連携により、重層的・一体的に住民を支える医療・介護サービス体系を構築する」ことを明示しています。

在宅ケアと看取りの場所 ~終末期医療をめぐる問題

住み慣れた自宅で終末期を迎える患者が大部分だった時代から、病院など医療機関で亡くなる患者との割合が逆転した1980年代初め以降、その差は年々大きく広がり続けています。
在宅医療・介護を受けている患者は、状態悪化に伴い入院してそのまま終末期を迎えるケースが少なくありません。
このような事情が影響し、下記各国と比較すると、日本では、病院で亡くなる方が突出して多いことがわかります。
看取りまでをカバーする在宅医療・介護のケアを推進するうえでは、終末期への対応も今後は不可欠だといえます。

終末期における医療:死亡場所の国別比較
医療・介護サービス提供体制改革の具体的な方向性として掲げられている「人材確保と資質の向上」「病院・病床の機能分化・強化」「地域包括ケアシステムの確立」「介護予防・重度化予防」の実現は、今後の高齢者ケア政策のキーワードです。
加えて、“ポスト介護保険制度”の施策として、増大する高齢者人口に相応の「終の棲家」を確保しつつ、終末期医療への対応を見据えた施策が、法制度の整備や診療報酬改定などの機会を通じて具体化されると予測されています。

2.チームケアが重視される今後の慢性期医療

慢性期医療の現状と抱える課題

(1)医療・介護の専門職連携が重要

慢性期医療を提供するうえで最も重要なポイントは、医療と介護をリンクさせることです。
これらを担う専門職が、各サービス利用者の生活を支えるという観点に立つと、専門職の協業と分業、そして他職種間の連携を図る必要があります。
これによって、専門職間で相互補完的に全人的なケアを実現し、当事者本人の尊厳を守るサービス提供を実践することにつながります。

専門職の視点とLifeの重層的構造
QOLの観点からは、「Life」の意義を、下記の図のように「生命」「生活」「人生」と重層的にとらえています。
これと同様に、医療と介護の間にも、双方の視点で専門職としての問題意識を持ち、ケアの提供において相互に補完的な役割を果たすことが、高齢者ケアにとっては重要になるのです。

Lifeの重層的構造と視点の補完性

専門職連携は患者の医療・介護依存度でパターンが変わる

患者に対するケアは医療ばかりでなく、日常では、リハビリテーションや介護サービスに対するニーズが複合的に存在しています。
また、それは患者の状況が医療あるいは介護のいずれに高い依存度を持つかによって、それぞれのサービス提供を担う専門職の連携パターンが異なります。

(1)医療依存度が高い患者に対する専門職連携

急性期から亜急性期、回復期、慢性期へと患者の病態が変わるにつれて、医療と介護の各必要度の割合も変化します。
医療の依存度が高い患者にかかる医療・介護サービス提供は、疾患によってもケアの質が変わるため、各サービス提供の専門職の連携パターンも異なります。

患者の疾患や病態によって必要とするケアの質は変わってくる

(2)介護依存度が高い患者に対する専門職連携

慢性期で医療ニーズが低くなり、逆に介護サービスの必要度が高くなった患者の場合は、主に日常的な生活を支援するサービスに対するニーズを満たすために、各サービス提供者の充実した連携が求められます。

医療依存度が低い患者では、日常生活を重視したケア・介護が必要となる
「い」は移動、「ろ」は風呂、「は」は排泄、そして「に」は認知をそれぞれ示しています。
これに「ご飯」の食事を加えて、介護における5つの要素を表すのです。
これらの支援について、それぞれ専門のサービス提供者や家族が携わり、患者の療養生活と介護を支えていくことが「チームケア」でもあります。
社会保障の安定・強化と財源の確保、および財政再建のための改革を同時、一体で実行しようとする社会保障と税の一体改革は、2011年6月30日に政府・与党による「社会保障・税一体改革成案(以下、成案)」が策定されました。
併せて、医療・サービス提供体制改革によって実現する国民のQOL(生活の質)の向上として、「急性期医療における医療資源の集中投入」と「医療と介護の連携強化と地域ケア体制の整備」が政策方針として掲げられています。

3.認定看護師・専門看護師による診療報酬の算定とその要件(抜粋)

介護保険サービスと医療提供ニーズの交差をめぐる現状と課題

(1)介護保険サービス需給状況と要介護度の関連

2000年の介護保険制度導入以降、介護サービスの提供は、それまでの措置から保険契約へと大きな転換を果たしました。
現在は、サービス受給者の介護必要度を計る上で要支援・要介護の7段階に区分され、それぞれ利用限度額が定められています。
介護サービス受給者は、年数を経るにつれて状態が重度化するのが一般的ですが、これに伴って、医療の必要度も高まるのが実際です。
双方のニーズに応えるサービス提供のバランスをどのようにとるかは、今後の課題となるでしょう。

居宅サービス種類別にみた受給者の要介護(要支援)状態区分別利用割合

(2)介護保険サービスの変化と課題

介護保険サービスを提供する事業者数も増加し、競争の激化に対応すべくサービスは変化する一方、新たな課題も顕在化しています。
社会保障費負担の見直しと併せて、高齢者人口が増大することで、住み慣れた地域での生活を継続しながら、サービス全体の量の拡充とニーズの多様化に対応する介護サービスの今後のあり方は、2025年を見据えた大きな検討課題になっています。

介護保険サービスと今後の課題

(3)終末期医療と介護保険サービスの関わり方

「どこで終末期を迎えたいか」という問いに対し、療養先として希望する場所に、自宅だけでなく長期療養を目的とする病院や特別養護老人ホームを挙げる方も多くあります。
こうした点からも、終末期医療に対して介護保険サービスがどのように関わるかが、今後重視されてくるでしょう。昨今整備が進められている「サービス付高齢者向け住宅」は、終の棲家としての選択肢の充実を求める声に応えたものといえます。

終末期医療に対する国民の意識 (一般患者、医師・看護・介護職:平成15年調査)

地域包括ケアシステムと在宅医療との連携

(1)地域包括ケアシステムの確立

厚生労働省は、日常生活圏域内において医療、介護、予防、住まいが切れ目なく継続的かつ一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の確立を図るべく、様々な施策を具体化しています。
具体的には、小・中学校区レベル(人口1万人程度の圏域)において日常的な医療・介護サービスが提供され、人口20~30万人レベルで地域の基幹病院機能、都道府県レベルで救命救急・がんなどの高度医療への体制を整備するもので、このシステムのなかで在宅医療・介護支援が進められます。

(2)在宅医療連携の将来像

終末期ケアを含む在宅医療連携のイメージ、地域包括ケアと今後の高齢者医療のあり方

4.2025年の医療・介護の将来像と高齢者ケアの展望

国と厚生労働省が示す2025 年医療・介護の将来像

(1)地域包括ケアシステムは「チームケア」の実践

厚生労働省は、今後の高齢者ケア政策の柱として、地域包括ケアシステムに大きな期待を寄せています。
前述のように、人口1万人程度の中学校区をひとつの地域連携ネットワークと捉え、様々な職種が協働する「チームケア」を地域で実践しようというものです。

医療・介護の将来像:地域包括ケアシステムへの期待

(2)社会保障・税の一体改革における医療・介護再編の位置づけ

社会保障・税一体改革においても、自宅・地域での生活を基盤としつつ、必要に応じて医療や介護サービスを受給できるシステム構築は、「全ての人がより受益を実感できる全世代対応型社会保障制度」の確立に不可欠であると示しています。
そのため、地域包括ケアシステムの早期確立が求められているのです。

介護サービスをめぐる改革方針と地域ケア連携の関連性
以上のように、看護師の能力を認証する制度の創設は、チーム医療の推進(=医師の業務負担軽減)と、より高い専門性を有する看護師が果たすべき役割という2つの効果が期待されています。

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ
厚生労働省が描いている将来像では、高齢者を中心とした医療・介護機能の再編を図るために次の項目が示されています。

長期療養の将来像、在宅医療・在宅介護の将来像

(3)直面する課題から将来像の実現を目指す

医療・介護サービス機能の分担等については、各種政策の具体化に向けた取り組みが進められていますが、厚労省が示す将来像の実現には、次のような課題を踏まえて、慢性期における医療と介護を適切にリンクさせることが重要です。

直面する課題から将来像の実現を目指す

2025年に向けた医療・介護提供機能の再編

2012年12月、再び自民党を中心とする連立政権が誕生したことで、施策方針の見直しも予測されるところですが、団塊の世代がすべて75 歳以上を迎える2025年に向けた医療・介護機能再編の方向性は、変わらず推進される見込みです。
これからの高齢者ケア・慢性期医療のあり方は、次に挙げるような項目に対する議論・検討を通じて、より明確化・具体化されていくことになります。

これからの高齢者ケア・慢性期医療のあり方とは
要介護高齢者の状態像の変化を踏まえたサービスの多様化と機能強化の実現に向け、医療・介護サービス提供体制の見直しが進められることから、今後も国、厚生労働省が打ち出す施策に注視する必要があります。

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