非正規社員の均衡待遇を実現させる!職務評価基準の作成ポイント

1.非正規社員の積極的活用が急がれる日本の労働市場

1.労働力人口減少に対応するために、非正規社員の積極的な活用が必要

わが国の労働市場では、少子高齢化の進展によって、労働力人口は減少傾向です。
2006年の労働力人口は6,657万人でしたが、2017年には約440 万人減の6,217万人に、2030年には約1,073 万人減の5,584万人になるとの推計結果が報告されています。
このように労働力の数量的な減少が予想されるなかで、日本の経済力を維持するためには、良質な労働力の確保は、喫緊の課題となっています。

労働力の推移予測(出所:厚生労働省 雇用政策研究会)
さらに、雇用形態の内訳を見ると、パート、アルバイト、契約社員といった非正規社員の割合が年々増大しています。
しかし、労働力人口の減少をカバーするために積極的に活用するべき非正規社員に対しては、雇用が不安定、低賃金、育成システムの仕組みが未整備などの問題を抱えたままの企業が未だに多いというのが現状です。

非正規雇用労働者の割合の推移
これからの労働力人口の減少を考えると、非正規社員の能力開発が急務となっており、平成27年4月には、非正規社員の待遇改善をさらに推し進めるために、パートタイム労働法が改正施行されます。
厚生労働省も正社員と非正規社員の均衡実現を促すためのさまざまなガイドラインを発行し、雇用環境改善への取り組みの支援を行っています。
本レポートでは、同省のガイドラインにて紹介されている非正規社員の能力開発や均衡待遇を支援するための職務評価手法、および運用事例を紹介しておりますので、自社の非正規社員の育成および処遇改善を検討の際にお役立てください。

2.非正規社員の均衡待遇改善を促すパートタイム労働法の改正ポイント

パートタイム労働法は、非正規社員の雇用環境を整備し、正社員との均等・均衡待遇の確保、正社員への転換の推進等を図ることを目的として定められた法律です。
同法は、平成27年4月1日に一部改正施行されることとなっていますが、主な改正ポイントは、以下の4項目です。

(1)差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大(改正)

職務内容が正社員と同じ場合に、処遇は正社員と同一とすることについて、これまで無期雇用社員のみ対象としていましたが、有期雇用社員を含む全てのパートタイム労働者が対象となりました。

(2)「短時間労働者の待遇の原則」(新設)

事業主が、雇用するパートタイム労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、合理的な理由がなければならないという待遇の原則の規定が定められました。

(3)パートタイム労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務(新設)

事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときは、実施する雇用管理の改善措置の内容について、説明しなければならないこととなります。

(4)パートタイム労働者からの相談対応のための事業主による体制整備の義務(新設)

事業主は、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないこととなります。

2.職務内容の客観的比較が可能となる職務評価手法

1.職務の客観的な比較が可能となる要素別点数法

厚生労働省は、パートタイム労働者(非正規社員)の雇用確保、育成、処遇改善を図るために、「要素別点数法による職務評価の実施ガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しています。
ガイドラインでは、パートタイム労働者の職務評価が可能な要素別点数法による職務評価により、正社員との均等・均衡待遇の現状を把握した上で、パートタイム労働者の能力開発と適正処遇を実現するための方法を紹介しています。
要素別点数法のメリットは、職務内容を構成要素ごとに点数化し、その大きさを比較することができるため、パートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇がどの程度確保されているかをチェックすることができ、パートタイム労働者の果たしている職務をより正確に把握し、納得性を高めるために役立てることができる手法です。

要素別点数法のイメージ
要素別点数法による職務評価は、「職務評価表」を用いて職務評価ポイントを算出して行 う方法です。
職務評価表は、下記の3つの要素から構成されています。

職務評価表
職務評価を通じて分かることとしては、大別すると下記の2つが挙げられます。

パートタイム労働者と正社員の職務の大きさ、パートタイム労働者と正社員の均等・均衡待遇の状況

2.職務と待遇を連動させることができる職務評価手法

パートタイム労働者の職務内容について、役割、難易度を総合的に判断して、ポイント化した職務評価表を作成することで、客観的な基準として表すことが可能になります。
ガイドラインでは、職務評価を行うための評価項目モデルとして8項目を定めています。
各評価項目に対する関わり度合いを「ウェイト」、そして役割レベルを「スケール」とし、これを掛け合わせたものがその項目のポイントとなります。
そして、各項目のポイントを総計したものが職務ポイントとなり、当該職務の大きさとして客観的に示すことが可能となります。

職務評価表の例

職務(役割)評価項目別スケール一覧

3.職務評価表を活用した処遇改善法

1.ポイントと時間賃率にて正社員とパート職員の待遇格差を改善する

(1)パートタイム労働者と正社員の勤務負担の差は、「活用計数」で調整する

職務評価表は、正社員と非正規社員の職務の大きさを比較できる基準として活用できますが、待遇については、正社員と非正規社員の賃金を1時間あたりの単価(時間賃率)を算出することで比較することができます。
時間賃率は、基本給を所定労働時間で割り算定しますが、勤務実態(負担の大小など)を考慮するために非正規社員の時給については、活用係数(※)を乗じることで計算します。
例えば、非正規社員の月給が20万円、月間の所定労働時間が160時間、活用係数が80%でとすると、時間賃率は「20万円÷160時間×0.8」で計算され、1,000円になります。

活用係数とは

(2)プロット図で待遇面のチェックを行い、待遇改善に役立てる

非正規社員と正社員の全員について、「職務評価」と「時間賃率の計算」ができたら、次に均等・均衡待遇が実際に図られているかどうか確認するために、横軸に職務ポイント、縦軸に時間賃率を取り、以下のようなプロット図を作成します。
下図は、職務ポイントが高くなると時間賃率も高い傾向になっており、賃金水準は職務に見合った望ましい傾向の例です。

プロット図例
一方、プロット図の作成において、以下のような傾向が見られた場合には待遇改善を検討する必要があります。

改善を要するパターン
パターン(1)は、同じ職務ポイントでも、パートタイム労働者と正社員の時間賃率の格差が大きくなっています。
パターン(2)は、パートタイム労働者と正職員間に職務(役割)ポイントの空白エリアがあり、かつ両者の時間賃率の格差が大きくなっています。
いずれのパターンも、公平な時間賃率とはなっておらず、賃金水準の改善を検討する必要があります。

2.正社員への登用も可能な等級制度の策定法

非正規社員が自身の能力開発を進めると、正社員に登用される可能もあることが分かると、自身のモチベーションが高まり、さらなる能力開発への意欲が高まることも期待できます。
これを促すために、職務評価のポイントをベースにした等級制度を整備することでステップアップの道筋が見えてきます。

等級制度のイメージ
さらには、正社員の等級制度と対応させることができれば、一定の等級に達した非正規社員は、正社員へ転換できるルートをつくることも可能となります。

正社員の等級とパートタイム労働者の等級を対応させるイメージ

4.非正規社員の待遇改善を実現させた導入事例

1.職務評価の導入を図り、等級ごとの役割を基本給に反映させたA社

A社は、パート、アルバイト社員について採用が難しい状況が続いており、パート、アルバイト社員の処遇改善や能力開発が必要と考え、正社員と同じ職務(役割)評価を活用した人事制度導入を検討することとなりました。

(1)改正内容

パート、アルバイト社員の役割を明確にするために、下図のような等級基準を作成。
これにより、パート、アルバイト社員であっても、正社員と等級が同じであれば、職種に関係なく同程度の処遇を実現することができました。

A社の等級基準表
パート、アルバイト社員に対する職種給は、職務(役割)評価結果(ポイント)をベースに算定しています。

(2)職務(役割)評価制度の導入による成功要因

既存の正社員の等級制度をベースにパート、アルバイト社員の制度を設計することにより、正社員、パート、アルバイト社員が共通の仕組みで制度運用することができるようになりました。
この制度導入により、均等・均衡待遇の推進が図られ、従業員全体の7 割を占めるパート、アルバイト社員にとって、納得できる賃金制度が構築されました。
また、パート、アルバイト社員の等級制度を整備したことで、パート、アルバイト社員自身がどうすれば昇格できるか、どれだけポイントを上げれば昇格、昇給できるのかを確認することができ、本人のモチベーション向上にもつながっています。

2.職務と習熟度に基づく等級をベースに時給を設定しているB社

B社は、ある地域におけるスーパーですが、パートタイム労働法が改正されたことに伴い、自社のパートタイム労働者の雇用改善を図るために改定に取り組みました。

(1)改正内容

パート社員は、職務内容と習熟度に応じ、1等級から4等級まで4段階の等級に格付けされ、各等級の達成度については職務評価ポイント、および人事考課に基づき昇格、昇給が決定されます。
また、4等級になったパート社員については、正社員への転換制度(試験、面接および上長の推薦)が設けられており、ベテランのパート社員のモチベーション向上にもつなげています。

B社のパート職員の等級制度、1等級の評価項目例
このうち、「基本姿勢」、「業務遂行度評価」は、各項目とも5段階で評価を行い、評価結果は、等級別に賃金レンジの範囲内で昇給(年間0~20円)されます。

(2)制度改正による成果と今後の課題

前述のような等級別の賃金決定基準が明確にしたことで、パート社員の賃金決定を、職務内容、習熟度、貢献度等に応じ客観的に決定できるようになりました。
また、キャリアアップの道筋が明確になり、更新時の年2回の面談の場での指導助言のツールとしても活用されています。
今後は、最低賃金の上昇への対応や、採用、定着率向上を図るために、福利厚生面の整備などが課題と捉えており、さらに改善させていく予定です。
これらの改善事例のように、これからは、労働力人口の減少に対応するために、単に人員確保するにとどまらず、非正規社員の能力を最大限活用することも重要となっています。
本レポートで紹介させていただいた職務評価手法は、非正規社員の能力開発を進め、正社員と非正規社員の均衡待遇を実現できる制度であり、今後の自社の非正規社員の能力開発、および待遇改善にお役立ていただければ幸いです。

■参考文献
「要素別点数法による職務評価の実施ガイドライン」厚生労働省
「パートタイム労働者雇用管理改善マニュアル好事例集」厚生労働省

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