人材採用の決め手となる!魅力ある職場づくり

1.魅力ある職場づくりで歯科スタッフを確保

歯科医院経営において優秀な人材を採用することは最重要事項です。
しかし、実態は慢性的な歯科衛生士不足が続き、新卒採用はもちろん、中途採用にも苦労している歯科医院は少なくありません。
採用する医院側(事業主)としては、スタッフが何を基準に応募先を選択しているのかといった点に配慮した採用活動が、優秀な人材確保のための成功のカギとなってきます。
そのために、求人方法の見直しや、面接・採用の基準作り、給与制度の整備などを行うことが、非常に重要となります。

1.歯科衛生士は慢性的不足

(1)歯科衛生士の就業者数

厚生労働省の調査によると平成24年末現在、全国の就業歯科衛生士数は、108,123人で前回(平成22年)に比べ、4,943人(4.8%)増加しています。
就業場所別では、「診療所」 が98,116人(構成割合90.7%)と最も多く、「診療所」以外(10,007人、9.3%)では、「病院」が5,210人(4.8%)、次いで市町村が2,033人(1.9%)となっています。

就業歯科衛生士数、就業場所別歯科衛生士数

(2)歯科診療所数の推移

歯科診療所数は、平成24年現在68,487件となっています。業界紙「コンビニエンスストア速報」によると、コンビニチェーン15社・グループ(加盟100店以上)の店舗は平成24年10月末で計50,101店となっており、歯科診療所はコンビニエンスストアの1.37倍の件数です。

歯科診療所数
先ほどの、歯科衛生士就業者数90,116人から試算しますと、1診療所当り1.32人と非常に少ない人数となります。
また、勤務希望地は都市部に集中しますので、地方で開業されている歯科医院において慢性的な人材不足に陥っている現状が、この数値から予測できます。

2.魅力ある職場づくりとリクルートの検討

(1)魅力ある職場づくりとは

ある歯科衛生士学校の卒業アンケートで、就職先の最大の関心事は、「働く側にとって明るい雰囲気と感じられる歯科医院であるかどうか」という回答が得られました。
明るい雰囲気をアピールすることは、求人には非常に重要です。例えば、実際に働いている先輩の声やスタッフルームでの明るいミーティングの様子をホームページに掲載する、職場見学制度を設け、求人希望者に明るい職場を見学させるなどです。
次に重要となるのが、スタッフが魅力を感じる職場かどうかです。
給与がいくら高くても、職場環境が劣悪ならば、スタッフも退職してしまいます。
魅力ある職場を目指して、診療方針の明確化、スキルアップ制度、復職対策、福利厚生制度の充実などを図ることが ポイントです。

スタッフが魅力を感じる職場とは

(2)リクルート方法の検討

様々な広告媒体があるうち、どれを選択したら多くの応募が集まるかは、院長先生の悩むところです。
ハローワークのように無料の媒体もあれば、有料である情報誌等も有ります。
折り込み広告や三行広告は高い費用になることも有ります。
効果的でかつ有能な人材が集まる方法を常に検討する必要があります。

(1)広告媒体の種類

主な広告媒体を整理しますと、次の媒体が考えられます。
自院にとってどれが効果的な媒体かを検討します。

広告媒体の種類、効果の高い広告媒体の活用法

(2)勤務条件表示のポイント

勤務条件は求職者にとって、一番知りたい情報の一つです。
勤務時間はもちろん、福利厚生面で特徴的な項目、スキルアップのための研修制度の充実などを整理した上でアピールします。

勤務時間や時間外、給与基準、仕事の内容等を明確に表示、休日や休暇、福利厚生面を明確に掲載、院内研修や教育に関しての実施状況や院長の考え方を掲載

(3)募集手法のポイント

履歴書を郵送いただき、書類選考することが一般的ですが、連絡順で随時面接とした方が、多くの求職者を集めることができますので、検討してみましょう。
募集してくるスタッフは、事前にインターネットでホームページをチェックする可能性が高いため、ホームページにも求人の旨を掲載することがポイントです。
当然ホームペー ジも見直し、わかりやすくアピールポイントが記載されているかをチェックします。

募集手法のポイント

2.面接と採用基準の設定で優秀人材を選考

1.歯科医院が必要とする人材

(1)歯科医院に求められる人材

歯科医院のスタッフもそれぞれにプロフェッショナルを目指すことが必要です。
歯科医院で求められるスキルは、以下のスキルです。

スタッフに求められるスキル

(2)効果的な面接手法

採用面接は人材計画を進める上で非常に重要な要素です。
面接を行う段取りですが、面開始前の事前アンケートに協力してもらう事も重要です。
この事前アンケートでは履歴書に記載してある内容を応募者に再度まとめてもらいます。
短時間でまとめさせることで、 本来の応募者が持っている能力を試すことにもなります。
面接での質問内容は応募理由や前職の退職理由、また、面接時の目線の配り方や挨拶の仕方、うなずき方、質問に対する回答の仕方などが応募者を見極めるポイントです。

面接実施のポイント

■面接時の質問内容

面接時には応募者の素の姿を見極めることが必要になりますが、このためには質問の内容が重要な役割を果たします。
時にはシビアな質問を投げかけて、相手の対応力を判断することも必要になります。

一般的な質問内容

2.採用基準の確立

スタッフの採用時に重要視すべきポイントは、第一に、その応募者の歯科医療従事者としての適性があるかどうかです。
その応募者の現在持っている技術や知識、経験も重要ですが、むしろ、その人間性、仕事や患者に対する取組姿勢にポイントを置くべきでしょう。
特に、履歴書や面接時の取繕った表面上の装飾に惑わされないことが重要です。

採用すべき歯科スタッフの採用基準と採用時のチェックポイント

3.ハイレベルな人材はハイレベルな医院を希望

(1)ハイレベルな医院に改善

ハイレベルな人材はハイレベルな医院に就職することを希望しています。
ただ就職先を探すのではなく、自分の要望に合う歯科医院を探しています。
募集や面接も大事ですが、 自医院自体をハイレベルな医院に改善しましょう。
まずは、日常の5Sの状態を見直しましょう。
患者さまの目に、どう映っているかを考えましょう。(自医院を客観的にみてみましょう。)
「きれい」「清潔感が有る」といった医療現場の当たり前の姿にしましょう。

日常の5S
医院の外観は、患者さまだけでなく「周囲」の人たちも必ず見ます。
「キレイ」と感じられるように工夫しましょう。
院内の様子も見えるでしょうから、見える所などの一部だけではなく、全般に「清潔さ」を感じられるように改修を行ったり、物の整理をしたり、定期的に、もしくは気づいたら即清掃を行いましょう。
躾という接遇マナーも研修を受け、身につけましょう。
スタッフの意識改革としてユニフォームを新調し、その結果、気持ちに緊張感が漂い、モチベーションが高まる事も有ります。

(2)ハイレベルな医院に改善

雇用条件と職場環境の整備が高いモチベーションを保ち続け、自己練成と能力向上への取り組みが、働きがいのある職場作りに重要です。
また、現在医療法では、歯科医院にも、比較的高度な医療安全、感染予防が義務付けられています。
安全な歯科医療環境の整備と提供という従業員への新たなアピールポイントにもなっています。

医療安全管理体制の基準

3.人事賃金制度構築でモチベーション向上

スタッフ給与の基準として、能力に連動した給与体系を整備することは、優秀な人材を確保するうえで大きなポイントです。
また、採用したスタッフを育成し、モチベーションを高め、定着させるためには、頑張ったことを評価する人事評価制度の導入も必要な項目です。

1.給与制度構築のポイント

(1)能力給制度の導入

スタッフの能力を評価し、その能力に応じて給与を支給する仕組みを構築します。
初任給を決定した後は、毎年昇給時に人事評価を行い、その結果を昇給額に反映し、またリーダー等昇進の際の判断基準とします。

能力給制度のメリット

(2)給与制度構築のポイント

院長のさじ加減によって、給与が決定している医院は、スタッフとの信頼関係に悪影響を及ぼすばかりか、医院での業務に対して、モチベーションの低下につながる恐れがあります。
給与制度は、スタッフと雇用関係の中で、特に誤解があってはならない部分であり、基準を設けることによって、スタッフとの信頼感も高まります。

給与制度を個人のモチベーションにつなげるポイント

(3)給与表作成事例

給与については、後述する職務基準書と連動し、等級を設定します。
能力に応じて、3段階に設定した場合、給与表は下記のとおりとなります。
等級が上位になる程、昇給ピッチを多く設定します。
毎年の昇給は、人事保評価の結果に合わせて号俸で決定します。
B評価で1号俸、A評価で2号俸というように運用します。
なお下記給与表は、基本給表であり、その他資格手当、役職手当、精勤手当、住宅手当等が加算されます。(計60,000円~100,000円程度)

2.評価制度導入のポイント

(1)人事評価の目的

人事評価制度導入の目的には、方針の共有、スタッフの能力向上や教育、昇格等の基準など様々な目的があります。
また、評価項目を考える際には、経営理念・医院方針・医院の強み・理想の組織風土・理想のスタッフ像・医院のスタンダードサービス・清掃レベル・作業レベル・作業スピード・患者満足度等、イメージもしくは基準を設定する事から始める必要があります。

人事評価制度導入の目的

(2)人事評価表の作成

自院がスタッフに何を求めているのかを整理して評価表に落とし込みます。
あまり評価項目を多くしても混乱しますので、必要な項目に絞って作成しましょう。

人事評価表事例

評価結果については必ず評価面接を行い、医院の期待事項を伝え、スタッフ個人の目標設定の確認を行い、コミュニケーションをとって、スタッフとの信頼関係を築きましょう。

3.職務ランク基準の設定

(1)職務ランク分けでスタッフのモチベーションを向上

人事評価制度導入のためには基準となる指針が必要です。
それが、「職務ランク基準書」です。
職務ランク基準書でスタッフを格付けし、各自の業務を明確化し、目標設定を具体化させることによって、スタッフのモチベーションを向上させることが出来ます。

職種別ランク基準書作成の目的
歯科医院運営はスタッフにかかっているといっても過言ではありません。
この重要なスタッフのモチベーションを高め、活かすには、医院という職場が夢の持てる場、働きがいのある場でなければなりません。
高いスキルや意識を持っているスタッフを上位ランクに格付けすることで、さらなるプロ意識の醸成と向上心に満ちたスタッフ育成をより効果的にすすめることができます。

職務ランク基準

(2)スタッフ満足が魅力ある歯科医院につながる

給与制度を構築し、評価制度で公正に評価し、職務ランク分けをすることにより、能力およびモチベーションの高いスタッフの処遇は高くなります。
これにより、スタッフのやりがいは向上しますし、さらに高い基準に取り組む努力をします。
このスパイラルが、自己レベル向上とともに「やりがい」の向上、すなわちスタッフの満足度向上につながるのです。
スタッフの満足度が高いからこそ、患者に満足して頂けるサービスを行えます。
結果として、スタッフ満足度の高まりは、患者満足度の高まりにつながり、患者やスタッフの集まる、魅力ある歯科医院となるのです。

■参考文献
日本ビズアップ株式会社 院長の経営参謀 e-ラーニング 「競争激化の時代に勝ち残る! 歯科経営のポイント 認定登録医業経営コンサルタント 歯博、商博 永山 正人氏
「図解 今すぐ使えるスタッフの人事評価と給与決定システム」 竹田元治、岡輝之 著 クインテッセンス出版株式会社

この記事をPDFファイルでダウンロードする