歯科医院の高収益化自費率倍増への取組

1.自費率向上の考え方と移行ポイント

1.歯科医院を取り巻く環境の変化

(1)保険診療報酬の将来予測

高齢化に伴い、医療費支出が増大しています。平成23年度国民医療費37兆8千億円の内、75歳以上の医療費が13兆3千億円(一人当たり91.6万円)で全体の35.2%を占めています。
70歳未満の医療費は18兆9千億円(一人当たり17万9千円)で、75歳以上の5分の1にすぎません。
高齢化の進展とともに、国民医療費は今後も増大していきます。
特に、団塊の世代全部が75 歳になる2025 年頃から医療費は急増すると予測されます。
今後、国としては、保険料の値上げ、診療報酬の抑制、一部負担割合の増加、保険適用範囲の縮小などによって対処すると考えられます。

(2)レセプトの1件あたりの点数低下

歯科疾患管理料が医学管理の点数を上げ、点数で約29%増加しています。
在宅歯科医療 が伸びていて、構成比は0.7%から2.1%に増加しています。
一方で、今まで大部分を占めていた歯冠修復及び欠損補綴が約20.5%減少し、構成比が46%から40%にと大幅に低下しています。

平成23年社会診療行為別調査(厚生労働省)

(3)歯科医院の収支の悪化

2011年の医療経済実態報告では、個人歯科診療所の売上は、21年の3,616千円から3,526 千円に減少しています。
費用が2,425千円から2,535千円に増加し、損益差額が995千円に17.2%減少しています。
医療法人でも損益差額は644千円に減少しています。

2011年医療経済実態報告

(4)インプラント市場の成熟化

昨年のインプラント市場は、苦情や相談の激増についての報道以来、激減しています。
大都市圏でもインプラント治療を行う歯科医院の競合が激化していて、すでに埋入済の高齢者も増加し、市場が成熟化しつつあると考えられます。

2.歯科経営の利益効率

自費診療は、保険診療の2倍程度の利益率となっています。
比較してみましょう。

歯科経営の利益効率

3.保険診療の限界と医療者の義務

歯科医院は医療機関であり、その時点で最も医療として優れた治療を進める義務があります。
総合病院では、内臓の手術に腹腔鏡手術と開腹手術のどちらを勧めるでしょうか。
確かに症状や状態によって違うかもしれませんが、患者さんに負担が少なく、より優れた腹腔鏡手術を進める事の方が多くなってきています。
歯科も同じです。
保険診療は1本の歯に何度も治療を重ね、大体15 年位で抜かなくてはならなくなる可能性がある治療です。
はたしてこのような可能性のある治療を患者さんに説明なく実施して良いのでしょうか。
医療機関側では、良い治療を勧める義務があります。
保険診療の最悪な流れと自費診療を比較してみましょう。

保険診療の最悪な流れ(むし歯の場合)、自費診療の場合(参考例)

2.自費診療のマーケティング

1.マーケティングとは

自費診療を増やすには、まず全体の来院患者数を増やさなければなりません。
全体数が増加しないと、自費診療を選択してくれる患者数も増加しないのです。
自費診療を選択してくれる患者数は、全体の2~5%ですが、その収益率や収益額が大きいため、母体である全体の患者数増加が必須となります。
また、自費診療を選択してくれる患者さんほど、満足度が高くなり、リピーターになってくれます。

(1)マーケティングの公式

公式の考え方
マーケティングとは、米国マーケティング協会では「個人及び組織の目標を満足させる交換を創造するため、アイデア、財、サービスの概念形成(コンセプト)、価格、プロモーション、流通を計画し、実行する過程である」と規定しています。

2.歯科医院に必要なマーケティング

(1)歯科医院の本質機能と表層機能

本質機能とは、当然受けられると期待する機能・サービスをいい、表層機能とは、当然あるとは思わないが、あるとうれしい機能のことをいいます。
患者満足には、本質機能だけでなく、表層機能の何か一つを他の医院が真似できないレベルまで高めることが重要です。
表層機能を、何か一つでも「驚き・感動のレベルまで高める」ことで、医院の差別化につながるのです。
但し、本質機能に不満があると全てが台無しになってしまいます。

歯科医院の本質機能と表層機能

(2)歯科医院に必要なマーケティング

歯科医院にとって必要なマーケティングとは、患者を創造し、維持するための施策をいいます。

歯科医院に必要なマーケティングとは

3.自費診療を増やすマーケティング

自費診療を増やすには、自院を選択してくれた患者さんに対し、信頼を得て、自費診療の良さを判ってもらい、患者さんに納得して選択してもらう事が重要です。
医院側からのありきたりの勧めだけでは、患者さんは自費診療を選択しません。
患者さん自らが、自費診療を選択するようにしなければならないのです。

自費診療を増やすマーケティング

3.患者ニーズとウオンツ

自費率を上げるには、自院を選択して来院した患者さんに、「自費診療」を選択していただかなければなりません。
自費診療の選択には、「患者ニーズ」をつかみ、「ウオンツ」という気持ちを持ってもらう事です。

1.患者ニーズとウオンツ

(1)患者ニーズが作られる心理の流れ

歯の状態が悪くなり、どこの歯科医院へ行こうかと考えた時、人は新しい情報を探すことをせず、通いなれた歯科医院に行ってしまいます。
相当の不満が無い限り医院を変える患者さんは少ないでしょう。
しかし、既存の医院に十分満足している患者さんも少ないのが事実です。
これは、他院の情報が少ないために起こっている状況であるからです。
では、他の医院が色々なメディアを使い情報提供を行い、実際に行った患者さんが口コミで評判を広げていたら、患者さんの行動はどう変わるでしょうか。
AIDMAの理論通り、信頼できる情報であれば、既存の医院に固執することなく、他院へ通院してしまいます。
したがって情報の質を上げることが重要なのです。

消費者の購買行動:AIDMA(アイドマ)理論

(2)ウオンツを作り出す

自費診療を進める前に、患者さん側の気持ちを知らなければいけません。
当初患者さん が来院される理由の多くは、歯を治したいという単純な理由からです。
痛い、詰め物が取れた等の治療部位を、早く治して欲しいと単に考えているにすぎません。
そのニーズ(希望)に応えるために、ニーズを掘り下げ、患者さんにとって有利な情報を提供し、ウオンツ(要望)を喚起することが重要です。

ウオンツの創造
ニーズを掘り下げ、具体的な情報を与え、自費診療へのウオンツを喚起することが重要です。

2.自費診療への説明手法

さりげなく自費診療を紹介するには、説明ツールを用意し、消費者の心理AIDMAを活用します。
自費診療の品質や見た目とその効果等の付加価値が自然に患者さんに伝われば、一定の割合では、自費診療を希望する患者数も増えるはずです。

自費診療へのAIDMA(アイドマ)、自費診療向上ツール一覧

4.自費診療を勧めるセールストーク

マーケティングの世界では、「患者さんを医院へ入らせるまでがマーケティング」であり、 「患者さんに自費診療を選択してもらうのがセールス」と分けられています。
心理学を応用した代表的なセールストークをご紹介します。

(1)返報性の原理

人は、他人から何かもらったり、特別なサービスをしてもらった時、お礼を言ったり、贈り物をしたり、何か相手方のためになることをしてあげたくなります。
親切にしてもらいっぱなしでは、何か返すまで落ち着きません。
これを「返報性の原理」と言います。

事例

(2)コントロールの幻想

女性がハンドバックを購入する際、店員はお客様の様子を見て四つ選んで提示します。
一つは気に入っている物、二つ目は似た感じの物、三つ目は全く違う感じの物、四つ目は似たような物で値段が高い物です。
大抵のお客さんは、最初に自分が選んだものを買って帰ります。
自分が選んだ物へのこだわりと安心感、そして自分で選んだ良い物が売り切れとなる不安感からです。
「この選択を自分でした」と思わせる心理誘導が、「コントロールの幻想」です。

事例

(3)他人の行動

例えば、昭和の3種の神器と言われたのは、電気釜、電気洗濯機、電気掃除機で、次世代では、車、クーラー、カラーテレビでした。
これらの普及は他人の行動を気にする人間の心理によるものです。他人が持っている物は、持っているだけで安心できます。
子供は特に「○○君も△△君もみんな持っているから、僕も欲しい」とねだります。
これは、人間が社会的存在だからです。
他人と同じような行動をとることで、自分がその社会の中で通常であることを保証しようとする心理が働くからです。

事例

(4)権威の信頼

人は権威を信頼する傾向があります。
自身に権威があると伝えることで、医院選択のなかで自院を選択してくれる可能性が高くなります。
また、歯科医師は白衣や術着を着用するなど、いかにも「腕の良い歯科医師」らしい服装をすることで権威を感じさせやすくなります。

事例

(5)希少性

人は、「残りわずか」と聞くと興味がわきがちです。
セミナーでも「残席あと○人」などと表示しているケースや、レストランでも「先着限定○名様」などと特別メニューを設定しているケースもあります。
このように、希少性が感じられると、そこに価値を感じて購買意欲が高まるという心理があるためです。

事例

(6)ドア・イン・ザ・フェイス

最初に高額の商品を見せられ、とても買えないと断ると、次にお手頃な価格の商品を勧められ、購入してしまうことがあります。
これは、最初の価格とのコントラストで実際より安く感じてしまうからです。
例えば、宝石商が奥様を集め、展示即売会を開きます。
最初に200万円の指輪を出します。
「とても買えない」というと「それでは破格のサービス品をお出ししましょう」と言って50万円の指輪を出してきます。
すると購入する奥様が出てくるのです。
さらに、「このお値段での提供は3点限りです。」と希少性をアピールすると完売してしまいます。

事例

(7)一貫性の原理

人は、自分の言ったことに対して責任を持とうとします。
人間は社会的な動物であり、これは社会的信頼感を維持し、自己の存在を守ろうとする心理です。
その結果、一貫性を保とうとするため、自分の選択したことについて、正しい選択をしたのだ、と再確認することもあります。
また、一旦同意すると、付属品を勧められるといわゆる「ついで買い」をしやすくなります。

事例

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