増患増収を図る成功する歯科医院の戦略・マーケティングポイント

1.戦略策定前の基本調査ポイント

歯科医院を取り巻く環境が大きく変化しています。
自院を取り巻く地域の環境変化を把握し、総合的な経営戦略を策定する必要があります。
世情をとらえ、自院の地域の経営環境がどう変化し、今後どのように変わっていくのかを把握したうえで、医院運営の戦略を考えなければなりません。

1.歯科医院の環境変化

心から満足させる医療

2.自院の基本調査のポイント

(1)売上の増加・減少状況の把握

売上は患者数の動向によって大きく影響されます。
増加・減少の原因を調査し、把握しなければなりません。
また、患者動向を把握し、「どこの、誰に、何をアピールするのか」を絞る必要があります。

売上の増減についてのポイント÷患者の状況についてのポイント

(2)競合医院の状況把握

厳しい競合のなかで、差別化を図り生き残るために、他の医院の状況をしっかり把握し、戦略を立てましょう。
自院の強みと弱み、外部環境の変化による機会と脅威を把握し、機会に合わせて強みを強化することで、他の医院との差別化を図ることを考えます。

他医院との競合状況を把握するポイント
正しい敬語を使うことにより、次に挙げるようなさまざまな効果が期待されます。

3.診療圏調査と患者イメージ調査

(1)診療圏調査

歯科医院は地域密着の医療機関であり、地域の患者動向の影響を直接受けます。
患者の70%が来る地域が一次診療圏です。
歯科医院の一次診療圏は、郊外で半径500m、都心 で半径250m。
車の場合は約15分のエリアで半径4㎞に広がります。
このエリアの競合歯 科医院の所在、患者動向の変化は最も重要な情報の一つです。
自分の足で歩き、自分の目 で競合医院の状況を把握することが必要です。
また、直近2か月分の患者数を地図にプロットして次の手順で行う診療圏調査が重要です。

リコールとメインテナンス

(2)患者イメージ調査

患者が医院にもつイメージの状況を把握します。
経営を改善したつもりでも、患者が求めるイメージから外れると患者数を減少させる危険があります。

イメージ調査の項目

(3)従業員イメージ調査

従業員満足が患者満足に投影します。従業員一人ひとりに面談あるいはアンケートによって意識の状況を把握し、人事労務管理の課題と改善ポイントを検討します。

4.SWOT分析による戦略検討

(1)SWOT分析で戦略方向を検討する

情報が集まったら、SWOT分析を行います。SWOT分析から次のような対策の方向性が考えられます。
「機会(チャンス)と強みを生かす」ことで競合優位を作り出す方法を考えます。
考え方としては、「プラスの徹底的強化」です。
マイナスを消しただけではゼロに戻るだけで患者 さまに選んでもらえません。
このとき、多少手を入れ弱みをカバーする程度では、他の医院と同じレベルになるだけで患者には選ばれないことに留意します。

「機会」と「強み」

2.分析結果から策定する機能別戦略のポイント

医院を取り巻く環境と医院自体の分析を行った後、経営改善の基本戦略を策定します。

1.基本戦略の策定

基本戦略は3年間の中期経営計画です。
必ず数値目標を設定し、重要な経営の方向性を文章に表現して従業員に伝えます。
基本戦略を実現するための手段が機能別戦略です。

2.基本的な経営戦略理論

基本戦略の策定にあたって、戦略理論を参考に将来の方向性を検討します。

(1)4つの基本的戦略

戦略には、次の4つの基本的な方向性があります(アンゾフのマトリックス)。

歯科医療の市場

(2)3つの差別化戦略

差別化戦略には、市場全体を対象とした「差別化戦略」と低価格による「コストリーダーシップ戦略」、そして特定の市場セグメントを対象にした「焦点戦略」の3つがあり、さらに「焦点戦略」には「差別化焦点戦略」と「コスト焦点戦略」があります。

3つの差別化戦略
歯科医院では、地域でセグメントした「差別化焦点戦略」が基本です。
差別化には次の項目があります。

誤解の原因と、理解を深めるためのポイント

3.機能別戦略の種類

機能別戦略は、マーケティング戦略、診療技術戦略、人事戦略、財務戦略の4つで構成します。

(1)マーケティング戦略

患者を増やし、維持するための戦略であり、最重要な機能別戦略です。
歯科医院は研究機関ではなく、医療サービスの提供機関であり、一人でも多くの患者のQOL向上が使命 となります。

マーケティング戦略のポイント

(2)診療・技術戦略

マーケティング戦略を実施するためには、新しい医療技術の習得や、治療成績の向上、原価低減の工夫が必要です。
さらに、最近は医療安全についての対策や医療法や歯科医師法、放射線技師法などの遵守に対する社会的な指弾も厳しく、対策が不可欠です。
これらについての具体的な取り組みや優先順位、達成期日などを明確に設定します。

(3)人事戦略

マーケティング戦略や診療技術戦略を実施するためには、勤務医やスタッフの協力が欠かせません。
まず、勤務医やスタッフの適正な人数の確保など組織体制の構築が必要です。
次に、勤務医やスタッフの意欲と能力の向上を図る必要があります。
そのために、給料や賞与など人事施策の見直しなどを総合的に検討します。
また、採用や外部研修や学会への参加、接遇の高度化などへの取り組みや報奨制度の導入などの施策を設定します。

(4)財務戦略

マーケティング戦略や診療技術戦略、人事戦略を実施するためには資金が必要です。
この資金の調達と、財務諸表による数値での売上、利益の状況の把握が財務戦略の内容です。
まず、戦略の実施に必要な資金を概算します。
例えば医療設備の交換や内装のリニューアルなど高額の費用がかかります。
さらにインプラントなどの研修受講にも数百万円の費用がかかります。
これらの費用を調達するための借入れかリースなどの手段を検討します。

4.実行計画の策定

機能別戦略のそれぞれの項目ごとに、実施 事項と期限、責任者などを具体的に設定した実行計画を策定します。
下図のようなイメー ジになります。

実行計画の策定

5.増患対策におけるマーケティング戦略

(1)中高年にターゲットを絞った増患対策が必要

不況の影響により、歯科医院では低所得層を中心にさらに患者が減少する可能性があります。
そのため、少しでも他の歯科医院より選ばれる工夫が重要です。
患者の年齢構成で は50歳代、60歳代、70歳代が過半数を占めます。
つまり、中高年の利便性を高め、彼らに支持される医療サービスを提供する方向での増患対策が重要になると考えられます。

(2)予防歯科の充実

予防歯科は、患者の口腔内の状態を良好に保てるだけでなく、患者を継続的に来院させ、他の歯科医院に行く気持ちにさせない効果があります。

予防歯科のポイント

(3)高齢化に向けた歯科医療の取り組み

訪問歯科診療など、高齢化に向けた歯科医療への取り組みを強化する必要があります。

高齢化対策のポイント
予防メインテナンスを避けたほうがいいケースは、次のような患者です。

3.具体的マーケティング活動

(1)と(2)のケースについては、臨床経験のある歯科医師や歯科衛生士なら理解いただける はずですが、このような患者は、自由診療の予防メインテナンスに限らず、歯科医院にとって要注意であることが多いものです。
(3)のアポイントを守れない患者というのは、歯科医院にとって大きな経済的損失をもたらします。
例えば、自由診療でPMTC(※)を行うとなると、最低50分は必要です。
もし無断キャンセルをされると、その時間はまったく空いてしまうのです。
この間も歯科衛生士の人件費は当然に発生するうえ、仮に事前連絡があれば他の患者の予約を入れられたかもしれません。
こうした逸失利益を含めると、医院にとっての損失は予想以上に大きくなります。
したがって、アポイントを守れない患者を対象とするのは避けたほうが無難なのです。
(※)PMTC:専門家(歯科医師・歯科衛生士)による歯面のプラークやバイオフィルムを、物理的・機械的に除去する処置

1.医療サービス戦略のポイント

マーケティング戦略では、本質機能の高さの訴求と、どんな医療サービスを提供するかが重要です。

経営理念

(1)経営理念の掲示

額に装丁して待合室に掲示したり、「診療のしおり」や「院内報」に掲載して配布します。
短時間で患者さまから信頼を得ることができます。

(2)ストアコンセプトを明確にする

経営理念・診療方針を具体的に表現できる看板や内外装を工夫します。
特に待合室や診察室のインテリアは重要です。
医院のパンフレットや診療のしおり、待合室に掲示するポスターなども全体の雰囲気を考慮して作成します。

(3)本質機能の高さを表現する

本質機能とは、歯が痛くて歯科医院に行き痛みが止まるという、歯科医院の本質的な機能です。
技術力や実績などを訴求します。

本質機能の高さを表現する

(4)医院パンフレットの事例

医院の特徴や診療内容など、本質機能の高さをわかりやすく伝えます。
美しいカラーのパンフレットとして視覚に訴えます。
院内用として、患者さまに持ち帰っていただきます。

医院パンフレットの事例

(5)医療サービスメニューの充実

患者のニーズに合った診療メニューがなければ、患者は別の歯科医院に行ってしまいます。
ジルコニアなどを使った審美歯科やインプラント、気付かれにくい義歯、最新の矯正治療などのメニューをそろえ、多様化する患者の選択肢に対応する必要があります。

2.プロモーション戦略のポイント

プロモーション戦略(広告戦略)では、看板とホームページが最重要です。

看板・サインの種類

3.チャネル戦略のポイント

魅力のある店舗づくりと、近隣の医療機関や商店などとの紹介関係の構築が重要です。

(1)店舗戦略のポイント

店舗は、集患できる立地条件、物件であることが必要です。店舗戦略のポイント

(2)待合室を感じよくする

待合室は、落ち着ける空間とし、キッズコーナーを設置したり、マッサージチェアを置くなど、患者さんにとっての魅力を作りこみます。

(3)診察室を感じよくする

診察室は、やさしい色使いで、十分な高さのある間仕切りを設置してプライバシーの確保と飛沫による感染を防止し、ディスプレイを設置して、自院の良さを「見て感じられる」ように配慮します。
また、できるだけ空が見えるレイアウトにして開放感を確保します。

(4)医療設備を見せる

信頼感を「見て感じてもらう」ため、素人に分かりやすい高度医療機器を装備します。
デジタル口腔内カメラや位相差顕微鏡は、説明時の納得性が高くなります。
レーザーは、先端医療機器のイメージが強く、掲示物などでPRします。
患者コミュニケーション装置は口腔内をビジュアルに見せ、先端医療を印象づけます。
セレックは目の前で設計できるので、患者に驚きを与えやすい装置です。
CTは保険算定できるようになり、普及期を迎えました。

(5)患者紹介ルートの構築

紹介患者を増やす対策を考えます。
そのために口コミ創出効果の高い40代~50代の女性患者を大切にします。
また、医科診療所との紹介関係や、美容院や理容店など近隣商店との協力関係を形成します。

4.価格戦略のポイント

(1)三段階の価格設定

松竹梅など三段階の価格設定にすると、真ん中の価格帯の商品が売れやすくなります。
歯科医院でも自費治療を三段階の価格設定として、最も選択して欲しい治療を真ん中に設定します。
また、保険診療での窓口負担の価格が重要です。
5千円を超えると「高い歯医者」というクレームがでてきますので、できるだけ窓口負担が3千円台で収まるように工夫します。

5.関係性マーケティングのポイント

接遇やスタッフの対応、話術などは、集患に大きな効果を発揮します。
例えばリコールハガキは、その工夫でリコール率が高まります。
リコールはがきを活用したプロモーショ ン施策を行います。

作成ポイント

■参考文献
平成24年7月 日本ビズアップ株式会社主催
「成功する歯科医院の戦略 ・マーケティングポイント」より抜粋
講師:株式会社M&D医業経営研究所 代表取締役 木村 泰久
「歯科医院コンサルティングマニュアル」社団法人日本医業経営コンサルタント協会(編) (一世出版)
※事例の資料は各医院での資料です。無断使用厳禁。

この記事をPDFファイルでダウンロードする