業務のレベルアップが収入に直結 医事課職員 育成のポイント

1.医事課職員に求められる基本スキル

必要となる基本的スキル

医事課職員は、外来診療に関する事務的業務の玄関口の役割を担っています。
その業務は、受付、医療費の計算、会計、診療報酬請求など広範囲に及び、医師や看護師などと連 携しながら医療サービス提供に関わっています。
医療機関にとって重要な役割を担う医事課職員には、どのようなスキルが求められるのかについて、以下に解説します。

(1)業務の基本は接遇力

クリニックで働く職員において接遇は最重要項目です。患者がクリニックを選ぶ時代となった現在、接遇の対応がしっかりできていない先は、そもそも患者の選択肢から外されます。
そこで重要となるのが、研修のあり方です。
また、より効果ある研修とするために検討していただきたいのは、現場実践形式による接遇研修です。
これは、受付や電話対応をロールプレイングにより行う方法で、院長や事務長がいろいろな患者役になっていただき、問題点や改善策等をディスカッションし、それらを共有化することがポイントです。
さらに、接遇マニュアルなどに「良い事例」「悪い事例」としてデータベース化するところまで徹底すると、職員は自然に適切な応対ができるレベルになります。

サービスクオリティの10 要因

(2)木を見て森も見る視点の醸成

クリニックが求める医事課職員採用条件のトップは、なんといっても経験です。
医師の指示をカルテから読み取り、適切に診療点数に置き換え、漏れなくレセプト請求してくれる、そうした即戦力を求めるのは当然のことです。
しかし、診療報酬という「木」にばかりにとらわれて、制度の仕組みや重点配分された診療報酬点数のねらいは何かといった「森」を見逃がしている医事課職員は意外と多いのです。
できるだけ多くのセミナーへ参加させるなど、積極的に情報を収集させ、外部からの刺激を与える仕組みが必要となります。

「木」と「森」の情報収集
医療制度改革のような大きな「森」に対しては絶えずアンテナを張りながら、診療報酬点数などの「木」への細やかな知識を蓄積することが、プロの医事課職員に求められる姿だといえます。

レセプト業務に必要となる知識
上記のうち、疾病や診断、治療に関する項目については、院内研修会の実施が有効です。
院長が講師となり、よく扱う病気全般について「どういった症状なのか」「確定診断のため に必要な検査は何か」「治療法とその概要」というような内容で実施します。
例えば確定診断のためには、検体検査、生理検査あるいはレントゲン撮影が必要になりますし、治療法についても、使用する薬剤や処置、リハビリテーション、そしてそれに伴って使用される医療機器や医療材料などの知識が必要になります。
これによって、直接レセプト請求に必要な医療行為を一連の流れに沿って理解することができるようになります。

連携能力と医療の質への貢献

(1)院内外との連携と調整能力

医事課職員はよく、「医療機関の縁の下の力持ち」と言われます。
確かにクリニックの収入のほぼすべてがレセプトによって決定されていますから、そのように表現されるのですが、だからといって「縁の下」でじっとしていればよいということではありません。
下図のように医事課はあらゆる現場との調整や打ち合わせが必要になる部署で、収入に限らず、患者サービスや院内の業務改善の中枢にいることを認識する必要があります。

院内外との連携と調整能力
これ以外にも、クリニックの機能によっては、医療相談室や栄養室との連携が必要になり、さらに内視鏡室や透析室など院内で発生する医療行為などのすべてに関わることとなります。
また院外処方の場合には、毎日の疑義照会など調剤薬局との関係も重要視しなければなりません。
このようにあらゆる部門との連携を絶えず密にし、風通しのよい院内環境を構築することも医事課職員に求められる基本スタンスといえます。

(2)各種統計資料の理解と情報提供

医事課には、レセプト請求に関する情報以外にも患者や収入に関する情報が集中して流れ込んできます。
これらのデータはクリニックの経営には欠かすことのできない重要なファクターですから、適切に管理するとともに、活用できる形で院長にフィードバックしていかなればなりません。
統計資料は、毎日出力する日報と、月末(もしくは翌月初)に出力する月報に大きく分けられます。
いずれも基本的には、患者数の動向と収入に関する資料となります。

日次資料月次資料

いずれの資料もレセプトコンピュータを使用している医療機関では、標準出力帳票として装備されていますので、少なくともどのような目的で利用されるのかを理解したうえで、院長にフィードバックする必要があります。
また、これらの統計資料をもとに加工し、標準出力帳票以外の資料作成が必要となることもありますので、毎月のデータ保存を徹底し、いつでも取り出して加工できるように管理しなければなりません。

2.医事業務委託有効活用のポイント

医事業務委託成功のキーポイント

(1)医療事務派遣サービス業務のメリット

医療事務を委託化する最大のメリットには、退職に伴う職員の募集・採用、労働保険・社会保険関連手続きが不要になることや、年々増え続ける給与や時間外手当等の人件費削減があります。
一般的なメリットとしては、以下の4つが挙げられます。

委託化のメリット

(2)医療事務派遣サービス業務のデメリット

デメリットには、派遣されるスタッフのスキルが低い場合に問題が発生するケースがあります。
優秀な派遣職員が退職したあと、また優秀な人が派遣されるとは限らないなど、派遣スタッフのスキルや質に関する点が挙げられます。

委託化のデメリット
受付事務を全て派遣サービスで対応するという選択肢以外にも、業務効率を勘案して正職員と委託職員を併用する形態があります。
このように目的を明確にして利用することによって、業務処理能力の安定性が図られ、正職員はより重要な業務に専念できる体制を構 築することが可能となります。

(3)求められる自院職員の委託職員統率力

委託職員は、契約に基づく業務としてカルテや処方箋、各種伝票をもとに外来および入院の会計といった日次業務や、月次業務としてレセプト作成に携わります。
一方で、カルテ等の記載や、新たな施設基準の取得に関して提言をすることは基本的にありません。
つまり、医療機関からの一方通行的な情報伝達(医師からの指示等)がシステムの基本動線であって、双方向での情報共有化は当然ながら委託業務範囲に含まれないのです。

院内の連携の基本的な形態

上図のように自院の職員の中で請求業務に精通しており、かつ医師との連携を図ることができる職員の存在が業務委託を展開する際の必要条件と考えるべきです。
医事業務を委託職員に任せており、監督すべき立場の職員が不在のクリニックでは、それが原因となり、次のような請求漏れに結びつくということが実際に確認されています。

確認された請求漏れの例

クリニック主導による委託業者選定の重要性

(1)人材派遣の形態

業務委託業者の選定においては、まず人材派遣の形態を理解する必要があります。
その形態には3種類あり、医事業務委託の場合は、派遣会社と契約を結び、派遣会社の管理のもとで業務を行う一般派遣が最も多いケースです。

派遣会社の形態

(2)委託業者選定の基準の確立

業務委託導入の検討は、事前に「どの業務をどこまで委託するのか」について、慎重に検討するところから始めます。
特に業務範囲や業務内容については、現在の院内業務マニュアルなどに沿って詳細に検討を行い、契約を締結し実際に業務委託が始まった後に「これもやってほしかった」ということのないようにしなければなりません。
また、業務委託を検討する際の重要なファクターは、派遣されるスタッフに関わる問題です。
「どのような教育を受け、どの程度のスキルを身に付けた人を派遣してくれるのか」、業者の社内育成システムや納入実績等については、事前に情報収集を行ったうえで、幹部会議等で適正な評価に基づき委託化に関する検討を行うことが必要です。

委託業務検討の流れと選定に関するポイント
そして、来店頻度と購入金額のセグメント表をひとつのマトリクスとして、上記のウエイトを用いて顧客のグルーピングを行います。

3.自院で育てる医事課職員育成プログラム事例

そして、前記の来店頻度と購入金額という2つの要素から上位、中位、下位顧客が自社にどの程度存在するのかを理解し、それぞれの顧客グループに対するアクションプランを作成し、実施します。

教育・研修プログラム作成事例

職員育成の最初のステップは、プログラムの作成とそのスケジュール化です。
どのような内容で、いつまでに習得させるかを、ゴールを定めて行うことが肝要です。
また、個人の能力も把握したうえで重点的に行うべき項目を特定し、不足する項目が出ないように配 慮する必要があります。

(1)基本となる受付業務の習得

はじめは、ひとりで新患・再来患者の受付ができるようになることを目的として、基礎的な項目について理解します。

受付業務の理解
ポイントは、保険証、受給者証のコピーをもとに新患カルテを実際に起こさせることです。
このプロセスは、Off-JTで実施して差し支えありません。
次にそのカルテをもとに、テスト患者番号を使用して新患登録を行います。
端末に余裕があれば診療時間内に、あるいは外来が比較的少ない午後の時間帯などを利用して行います。
慣れてきたら、入力時間のスピードアップについて意識させるようにします。

(2)レセプトのベースとなる会計業務の理解

ひとりで外来の会計ができるようになることを目的に、会計業務について理解します。

会計業務の理解
会計業務の教育におけるポイントは、入力原票の的確な読み取りです。
入力原票とはカルテ、処方箋、検査依頼書、その他の指示書が含まれます。
このうち、カルテの読み取りには「慣れ」が必要であるため、いろいろなカルテをもとに反復して慣らすことに重点を 置いて育成します。
最初は診療内容が複雑、難解な患者の入力はさせずに、基本診察料が判断できるレベル(初診料か、再診料か)を目指します。

レセコンにおける主な自動算定項目

(3)一般的病名およびテクニカルな病名登録の理解

カルテおよび会計後のデータをもとに、病名をレセコンに入力できることを目的に病名について理解します。

病名登録の理解
ここで留意する点は、基本的にOff-JTで行えるため、カルテから適切な病名を確定できるように繰り返し行うことです。
登録作業はしばらく状況を見てから行うようにして、当面はペーパーに書かせ、まずは病名そのものに慣れてもらうことを主眼とします。
次の段階でその症状や、確定診断の方法、治療法と展開し、記載された病名を見なくても、検査やレントゲン撮影あるいは処方内容などからある程度の病名付けができるレベルを目指します。

(4)レセプト請求業務の理解

出力されたレセプトが返戻・査定されないための判断基準を身に付けることを目的として、レセプト請求の流れおよびチェック方法について理解させます。

レセプト業務の理解
重要なのは、請求事務の仕組みの理解を徹底することです。
特に支払基金、国保連合会等の支払機関と保険者の関係、返戻・査定の仕組み、再請求の流れを十分に理解させます。
点検させる内容としては、病名漏れや初診料と開始日の関係、古い疑い病名のメンテナンスに限るものとし、さらに返戻レセプト処理の流れを習得させます。

新規開業時における医事課職員育成ポイント

(1)新規開業時に忘れがちな届出施設基準の理解

施設基準の届出を漏れなく実施することは、クリニック経営において非常に重要です。
同じ医療行為を行っていても、施設基準を取得しているか否かで手技料などに大きな差が生じることとなります。
この届出忘れは、特に開業時に発生するケースが多いため、事前に「どの施設基準が算定可能なのか」「取得のための要件は満たしているか」「届出書類の準備は万全か」を他院の状況などを参考にして確認するとともに、職員に対しても、どのような施設基準を取得しているかを周知する必要があります。

届出が必要な施設基準

(2)外部資源活用による育成の検討

新規開業にあたり、医療機関に勤務した経験のないフレッシュな方を採用して、その意欲と自主的な学習努力に期待する院長がいらっしゃいます。
しかし、経験のない職員ばかりでスタートするということは、当面は請求事務に関する知識は院長に委ねられることとなりますので、その後の育成にも院長自らが関わらなければなりません。
日常で診療を行いながら、前述のようなOJTを実施することは実質的に困難ですから、開業前の研修期間をある程度確保するか、あるいは医療コンサルタントなどに育成支援を依頼することも選択肢の一つです。

この記事をPDFファイルでダウンロードする