制度改革を加速させる今後の医療・介護をめぐる政策方針

1.示された今後の医療・介護に関する政策方針

1.「骨太の方針」にみる医療・介護の方針

本年6月24日、政府は経済財政諮問会議による「経済財政運営と改革の基本方針2014(骨太の方針)」を閣議決定しました。
医療・介護に関わる主な内容は下記のとおりです。

「骨太の方針」に明記された医療・介護関連項目
骨太の方針では、「社会保障給付についていわゆる『自然増』も含め聖域なく見直す」と明記されたほか、病床再編による医療提供体制の適正化を早急に進めるとも記しており、先に成立・公布された医療介護総合確保推進法に基づく各改正とも併せて、経済再生と財政健全化の双方に取り組むことが掲げられました。
そのほか、政府内の産業競争力会議による「日本再興戦略改訂2014(成長戦略)」、規制改革会議の「規制改革実施計画」も同日閣議決定となり、それぞれにおいて医療・介護分野について政策方針が示されています。

2.「成長戦略」 における医療・介護の位置づけ

(1)成長戦略における健康関連分野の方針

「日本再興戦略改訂2014(成長戦略)」では、「医療・介護などの健康関連分野をどう成長市場に変えてゆくか」という観点にたち、新たな保険外併用療法として患者申出療養(仮称)の検討などが盛り込まれています。
「成長戦略」に示された医療・介護関連項目

(2)規制改革実施計画における医療・介護に関する方針

規制改革会議でまとめられた「規制改革実施計画」においては、稼働していない病床を把握し削減するための方針策定など、医療・介護関連分野における財政健全化の実践に向けた基準や要件の明確化、方針などが示されています。
既に年度内の措置が決定している社会福祉法人の内部留保の取り扱いに関しては、法人運営の透明性確保について、問題を指摘する声が多かったことから、適正化に向けた基準が公表されるとみられています。

「規制改革実施計画」に示された医療・介護関連項目

3.患者申出療養(仮称)の概要

来年度の通常国会法案提出を目指し、医療保険が適用される保険診療と、適用されない保険外診療(自由診療)を併用しても医療費の自己負担は自由診療部分のみとする「患者申出療養制度」の枠組みについて、現在も検討が進められています。
混合診療の拡大につながるといわれる同制度は、政府の規制改革会議(岡素之議長=住友商事相談役)が安倍晋三首相に提出した第二次答申に盛り込まれたもので、新たな成長戦略の目玉でもあり、保険診療や国民皆保険制度を脅かす存在という意見もみられます。
一方で、「成長市場」と位置付けられた医療・介護分野の活性化と将来の保険適用を目指すなかで、未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用などを迅速に保険外併用療養として使用できるよう、保険外併用療養費制度の中に定める仕組みであることから、患者の意向に沿う医療提供の可能性も持っており、様々な立場から議論の対象となっています。
患者申出療養では、臨床研究中核病院(現在15 カ所)が主体となる制度として考えられがちですが、将来的には能力の高いかかりつけ医が臨床研究中核病院・大学病院と連携して推進する立場となることが期待されます。

患者申出療養の対応方針<現在の判明分:抜粋>
また、最も重視される安全性・有効性等の確認については、(1)国において、専門家の合議で安全性・有効性を確認(エビデンスのある診療はできるだけ対象とする方針)、(2)保険収載に向け、治験等に進むための判断ができるよう、実施計画を作成し、国において確認するとともに、実施に伴う重篤な有害事象や実施状況、結果等について報告を求める(長期的な評価が必要なものも対象)、(3)実施計画の対象外の患者からの申出があった場合は臨床研究中核病院において安全性、倫理性等について検討を行った上で、国において専門家の合議により実施を承認、という3点が示されました。
患者に身近な医療機関として、地域のかかりつけ医である診療所が「協力予定医療機関」となることも十分想定されることから、今後公開される情報については関心を持っていることが求められるでしょう。

2.病床機能報告制度と地域医療構想の策定

6月18日の参議院本会議で可決、成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(医療介護総合確保推進法)は、医療法や介護保険法等の19の改正法の一括法で、同月25日に公布されています。
これを受けて、厚生労働省は7月25日、医療介護総合確保促進会議の初会合を開催し、地域医療構想などの基本方針となる「総合確保方針」の策定について検討を開始しました。

1.医療介護総合確保推進法の主要項目

(1)医療法に関連する項目

今回の改定では「同一建物における複数患者」いわゆる施設系在宅患者に対する訪問診 療料の大幅減算が大きな反響を呼びました。
こうした背景には、高齢患者を短時間にまとめて診る「まとめて診療」や「患者紹介ビジネス」など、いくつかの不適切な事例に対する厚労省の戒め的な措置として捉えるべきでしょう。

医療法関連項目
上記の改正のうち、中心となるのが病床機能報告制度の創設と地域医療構想(ビジョン)の策定です。
病床機能報告制度については後述しますが、都道府県は、本制度で報告された情報を基に医療需要を勘案し、機能別の必要病床数や将来の見通しをまとめた地域医療構想を策定して医療計画に反映させることになります。
さらに、地域医療構想を確実に実現するための措置として、医療関係者や保険者で構成される「協議の場」を設け、構想の達成に必要な事項を検討するとしました。
そのうえで、この協議の結果である決定事項に従わない医療機関に対しては、都道府県がペナルティーを科すことも可能としています。

(2)介護保険法に関連する項目

介護保険法関連項目
改正介護保険法では、市町村の権限強化と患者の自己負担見直しが柱となっており、事業者の指定権者を都道府県から市町村に移譲するなど、利用者の居住地の市町村が細やかなサービス提供を可能にするほか、在宅医療との共同・連携を図るため、介護保険事業計画と医療計画との整合性を確保する改正がなされました。

2.病床機能報告制度の導入

(1)病床機能報告制度が10月に開始

病床機能報告制度は、一般病床又は療養病床を有する病院又は診療所の管理者は、病床の機能区分に従い、基準日における病床の機能(以下、「基準日病床機能」という。)及び基準日から一定期間が経過した日における病床の機能の予定(以下「基準日後病床機能」という。)並びに入院患者に提供する医療の内容等の情報について、都道府県知事に報告が求められるというものです。
この情報をもとに、将来の医療需要と各医療機能の必要量を「地域医療構想」として都道府県単位で示し、医療機能の分化と連携の協議を通じて、病床数の適正化を図るとされました。

(2)具体的な報告内容

8月以降、本制度の詳細が明らかとなり、医療機関が報告すべき具体的内容が示されています。

医療機関が報告する医療機能
今後、病棟単位での報告となることから、現行のレセプトには、「どの病棟でどのような診療が行われたか」という情報は含まれていませんが、次期診療報酬改定時期にあわせて、「病棟コード」が入力できる様式に変更することとなりました。
また、医療機関は病棟コードを入力したレセプトで請求を行い、国のナショナル・データベース(NDB、下記*参照)に届いたデータを厚生労働省が集計し、都道府県に提供するという仕組みが準備されています。

NDB:ナショナルデータベース「レセプト情報・ 特定健診情報等データベースシステム」NDBデータ:国が保有するレセプト情報 、特定健診情報及び特定保健指導情報のデータ
本年度は、医療機関は7月1日現在の構造・人員配置の状況を10月中に報告することとなります。
医療内容については、7月審査分のレセプトが集計されて、これらの報告内容を基に、都道府県は本年度中に地域医療構想を策定することとされています。
さらに今後、毎年7月1日時点の状況とその6年後についての医療機能を報告することが求められています。
この「6年」は、医療計画の計画期間に合わせたもので、6年より前に医療機能を変更する予定があれば、その時期も報告する必要があります。

(3)病床数の適正化に関する都道府県の権限

病床機能報告制度によって集計された医療機能の情報は、地域医療構想策定のベースになるとともに、今後の医療確保のための「協議の場」でも活用されます。
具体的には、地域医療構想において定めた医療機能の必要量から、仮に「過剰」と判断された病床があり、これを十分な理由なく増やそうとする医療機関に対し、病床転換の中止を求めることが可能になります。
現在は休床中の病床を有している診療所や病院にあっては、今後の医療需給状況から、再度稼働させることが難しくなる事態も想定されます。

都道府県が「病床転換中止」を求める場合 ~公的とそれ以外の違い

3.医療介護総合確保促進法による基本方針

1.「総合確保方針」の策定へ

厚生労働省は、医療介護総合確保推進法(以下、「確保推進法」)の成立を受けて、地域医療構想などの基本方針となる「総合確保方針」の策定について検討を重ねています。
総合確保方針では、新たな財政支援制度の基金の財源を充てて実施する都道府県事業に関する基本的事項も、その中に含んでいます。
また、総合確保推進法に基づき医療介護総合確保促進会議が設置され、7月25 日に初会合が開催されています。この促進会議の場で、総合確保方針が検討されるのです。

(1)総合確保方針策定に向けた論点

医療介護総合確保推進法に規定された総合確保方針は、超高齢社会を見据えた医療・介護提供体制の改革に向け、地域医療構想を反映させる医療計画や介護保険事業支援計画などの基本方針を定めるもので、19の法改正の一括法である確保推進法の具体化に向けて、各計画に落とし込むまでの方向性と枠組みを示すものと言えます。

総合確保方針に盛り込むべき事項についての論点 ~厚生労働省、意義と基本的な方向性
また、今後、確保推進法の具体化に向けて、国や都道府県、市町村が果たすべき役割としては、次のような項目が示されています。

国、都道府県および市町村の役割

2.介護分野における法・制度改正への対応方針

在宅医療との協働が重視されていることから、介護保険事業についても法・制度改正について、対応が求められる医療機関も多いはずです。
介護保険制度改正の準備として、厚生労働省・全国介護保険担当課長会議において説明された内容から、確認しておくべき事項を整理します。

(1)在宅医療・介護連携の推進

在宅医療・介護連携の推進に関しては、制度改正により新たに創設される推進事業の概要案が示されています。

在宅医療・介護連携推進事業の内容

(2)特養の特例入所に関する要件

今回の法改正により、平成27年4月から特養ホームの新規入所者は原則として要介護3以上に限定されることが決定しています。
ただし、要介護1~2である場合でもやむを得ない事情があるケースについては、入所が認められるものとされ(特例入所)、この要件に関する検討が行われていましたが、今般指針の骨子案が示されています。
要介護度の軽重だけでなく、対象者が在宅生活に困難な事情がある場合には、特例的に入所を認める判断基準として、4つの要件案がまとめられています。

特例入所の要件(勘案事項)の骨子案
上記によると、「やむを得ない事情」とは、要介護1~2であっても、認知症や知的・精神障害等、深刻な虐待の疑いのほか、単身世帯・介護者が高齢・病弱などの理由によって、在宅生活が困難な状況にあると認められる場合と定義されています。
これらに該当するとしても、必ずしも特例入所が認められるわけではありませんが、枠組みを示すことにより、入所適応者を判断することになるとみられます。

(3)デイサービスをめぐる見直し

(1) 小規模デイの見直し

小規模通所介護については、法改正によって平成28 年4月から地域密着型通所介護に移行し、その対象は「利用定員18 人以下の事業所」となる予定です。
介護報酬上の小規模事業所の定義は、「前年度の1月あたりの平均利用延べ人員が300人以内」とされていますが、固定的な基準が必要として、新たに規定されます。
現在の通所介護事業者数は3万9500件を超えていますが、うち介護報酬上の小規模事業所は約2万1670件で、全体の約55%を占めている状況であるため、固定的な利用定員の定義が導入されることにより、影響を受けるケースは少なくありません(平成26年5月審査分)。

(2) お泊りデイサービスへの対応

「お泊りデイサービス」については、届出制の導入、事故報告の仕組みの構築、情報公表の推進等の対応が予定されています。
具体的には、平成27年4~7月を届け出期間として10月から情報公表、同年4月1日から市町村への事故報告が実施されるスケジュールとなっています。

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