在宅医療移行促進の切り札!看護師特定能力認証制度の現状と行方

1.看護師特定能力認証制度試案の概要

1.厚生労働省が「看護師特定能力認証制度」試案を提示

(1)新たな枠組み 看護師特定能力認証制度

「看護師特定能力認証制度」は、高度な臨床実践能力を持つ看護師が、看護実践を基盤として特定の医行為を含む診療補助を提供することで、より患者の状態やニーズに合わせた迅速な医療の提供が可能となる新たな枠組みです。
厚生労働省は、「チーム医療推進のための看護業務検討ワーキンググループ(以下、「WG」)」において、高い専門性を習得した看護師による特定の医行為に関する規定を保健師助産師看護師法に盛り込む「看護師特定能力認証制度」の骨子案を提示し、その後本骨子案をベースに国の関与をめぐる能力認証制度の枠組みに関する「試案」を示しました(本年8月22日開催「第13回チーム医療推進会議」)。
看護師能力認証制度については、今後も検討が続けられ、やがて新たな能力認定制度としてスタートすることになります。

誰でも精神障害患者になる可能性がある

(2)示された基本的考え方

チーム医療推進会議における意見を踏まえて、厚生労働省が「制度の枠組みの試案」において示した基本的な考え方は、診療補助が実施可能な特定行為の明確化と研修システムの確立の2点です。

特定行為と実施要件に係る基本的考え方
さらに、特定行為と看護師の能力認証に関する試案(イメージ)の詳細は、次のような内容です。

特定行為及び看護師の能力認証に係る試案(イメージ)
新たな制度により認証を受ける看護師は、上記のように示された特定行為についてのみ、医師等の包括的指示により診療補助を行うことができるということです。
つまり、既存の専門看護師および認定看護師が、保助看法に定める看護業務の範囲内であるものの「特定分野」という広い知識と技術を習得することを求められているのに対して、限定列挙された特定の診療補助行為について、実施を認めるという法的根拠を持たせた制度と理解することができます。

2.直近の検討項目「診療補助実施の流れ」

厚生労働省は、本年11月20日に開催したWGにおいて、特定行為の範囲をめぐる議論が進んでいることから、実際に医師から包括的指示、あるいは具体的指示を受けて、認証を受けた看護師が診療補助を行うまでの流れについて、厚生労働省案を提示しました。
同日も各委員、関係団体から意見の陳述が行われていますが、実際に認証を受けた看護師が特定行為を行う際の基準となるべき内容であることから、今後も職種それぞれの立場から様々な意見・主張と、検討が進められると思われます。
厚生労働省が提示した「包括的指示・具体的指示が行われてから、診療の補助が行われるまでの流れ」案の概略は、次のようなものです。

(1)診療補助に向けたプロトコール(手順書)の作成

院内等で、認証を受けた看護師による診療補助行為が行うことを予定している場合は、事前に「診療補助に向けたプロトコール(手順書)」を作成していることが前提となります。
つまり、プロトコールが作成されていなければ、医師・歯科医師が「包括的指示」を行ったとみなされることはありません。

プロトコールに定めることが必要な事項 ~「包括的指示」の前提となる要件
適用患者を特定するほかは、未だ抽象的な内容となっているため、今後項目が具体化されるに従い、各医療機関における想定ケースに応じて検討することが必要です。

(2)包括的指示に基づくケース

上記のような必要項目を定めたプロトコールが作成されているという前提の下、医師から「包括的指示」を受けた看護師が行う診療の補助は、次のような流れが想定されています。

包括的指示による診療補助業務フロー

(3)具体的指示に基づくケース

包括的指示による診療補助が困難な場合は、医師等の具体的指示に従い業務を行う流れです。

具体的指示による診療補助業務フロー

(4)看護師以外の医療職種が行うケース

チーム医療においては、看護師以外のコメディカルが参加して診療補助を行うことも想定され、その前提として看護師が病態の確認を行うことを必要としています。

看護師による病態確認後、それ以外の医療職が行う診療補助の流れ

2.先行する認定資格の現状と新制度の行方

1.日本看護協会による資格認定制度

看護師特定能力認証制度は、今後も検討が続けられ、将来的に新たな能力認定制度としてスタートすることになります。
一方で、看護職には、これに先行する資格認定制度があり、認定を受けた看護師が既に全国の医療機関で活動しています。
本章では、先行する資格認定制度の現状について解説します。

(1)既存の資格認定制度の概要 ~目的と役割

公益社団法人日本看護協会が設置した資格認定制度による指定の教育を受け、1996年に「専門看護師」が、1997年には「認定看護師」がそれぞれ誕生しています。
これら制度は、医療現場において高度化、専門分化が進むなかでの看護ケアの広がりと看護の質向上を目的とするもので、その目的に従い、自身が習得した看護分野の知識・技術を実践し、併せて看護職に対する指導・教育を行う役割を担うものです。

看護職の資格認定制度 ~目的と役割のキーワード:日本看護協会ホームページより
認定する立場である看護協会としては、看護ケアの向上を図ることを目的の一つとしているため、高度で専門的な知識・技術を身に付けて実践するばかりでなく、それらを活用することで周囲の看護職の相談や教育・研究に対しても貢献が求められているのが特徴的であるといえるでしょう。
新たな能力認証制度では、その背景にチーム医療の推進を目的とし、その中で看護師の役割が重要であることを端緒としているため、看護業務の範囲と特定行為の明確化を中心に議論が進められています。
その中に、教育や研究に関する役割は含まれないものと推測され、この点で既存の認定制度とは異なります。

(2)専門・認定看護師の活動状況

専門看護師と特定看護師は、次のような各分野に関する専門的な看護知識・技術を身に付け、主に病院において看護を実践しています。

専門看護師
上記の各分野をみると、疾病や患者特性、地域、支援対象などにより区分されており、それぞれに高水準の看護を提供することが求められています。
特に、近年重点施策として挙げられている精神医療分野において、大きな役割を果たす「リエゾン・ナース」は、この精神看護専門看護師が想定されているのです。

認定看護師
専門看護師の特定分野と比べると、専門性や複雑さを考慮し、より看護ケアに着目した区分となっているといえます。
しかし、認定看護師が活動している主な所属施設は9割近くが病院であり、しかも大規模病院に所属している状況です(出典:日本看護協会 2009年認定看護師認定更新者活動状況結果概要)。
さらに、多くが「がん診療連携拠点病院」や「特定機能病院」などに該当しており、所属施設においては看護の実践のほか、チーム医療推進のうえでの多職種間調整、リーダーシップ発揮などの役割を期待されています。
そのため、地域医療および在宅医療支援の担い手である地域の診療所において、その能力を発揮する機会は多いとはいえないのが現実です。
また、診療報酬上、これら資格を認定された看護師が算定要件に関連する項目も多く、積極的にそれら項目の算定を目指す病院にとっては、まさに収入に直結することから、専門看護師・認定看護師ともに確保したい人材でもあるのです。

認定看護師・専門看護師による診療報酬の算定とその要件(抜粋)

2.看護師特定能力認証制度をめぐる今後の論点

(1)特定行為の法制化と実施要件

現行の保健師助産師看護師法(以下、「保助看法」)において、看護師の業務は「傷病者もしくは褥婦に対する療養上の世話または診療の補助」と定められていますが、これまで「診療の補助」の範囲が明確にされていなかったという背景があります。
今回の骨子案および試案は、保助看法の改正で特定の医療行為が診療の補助に含まれることを明示したうえ、さらに実施方法を看護師の能力に応じて定めることにより、医療安全の確保と、適切かつ効率的な看護業務を実施できる枠組みを構築するねらいがあります。

特定行為をめぐる今後の論点

(2)認証のあり方 ~指定研修の内容と修了の登録方法

(1) 研修カリキュラムの策定

試案においても、骨子案と同様に能力認証には研修が必須とされていますが、その具体的なカリキュラムに関しては、認定看護師や専門看護師を養成する研修プログラムとの兼ね合いもあって、意見が分かれている状況です。
厚生労働省は、「最低基準」を示し、これを柱として研修機関が自由に教育内容を追加する旨の提案を行っていますが、習得すべき知識の範囲が広範なものとなり、定められた年限で到達度に影響が出るのではないか、あるいは安全性確保や責任の所在との関連はどうなるのか等の問題が指摘されています。
今後も、試案と併せて研修カリキュラム策定方針について、議論が継続されます。

厚生労働省が提案する研修カリキュラム案 ~最低基準の提示

(2) 研修修了の公示方法

骨子案では、研修の修了後に国家試験に合格後、一定の条件を満たす能力を有する看護師を厚生労働大臣が認証する方法を示していましたが、その方法に関しては、「チーム医療推進会議」においても議論が続けられました。
最終的に、能力認証について何らかの国の関与は必要とする立場から、骨子案からさらに具体的枠組みを整理した試案において、看護師籍に登録し登録証を交付するという方法が示されており、引き続き具体的なあり方が検討されています。

指定研修修了に係る登録方法をめぐる論点

3.在宅医療で期待される経営への貢献

1.医療現場における行為分類と特定行為を行う看護師の今後る

(1)看護業務と特定行為分類の考え方

厚生労働省・看護業務検討WGでは、看護業務に係る能力認証制度の前提として、医療現場で行われる行為を4つに分類しています。医師のみが実施できる絶対的医行為(A)から、看護師が一般に実施できる行為(C)までのうち、看護師が実施できる特定行為として、「医療行為の侵襲性や難易度が高いもの」(B1)、「医療行為を実施するにあたり、詳細は身体所見の把握、実施すべき医療行為およびその適時性の判断などが必要であり、実施者に高度な判断能力が求められる(判断の難易度が高い)もの」(B2)を想定していました。厚労省試案に示された特定行為は、下記の表のB1・B2に該当するものです。

WGによる医療現場で実施される行為の4分類と考え方
この分類によれば、医師のみが実施する全絶対的医行為としてAに分類される行為を除き、B1からC分類の行為については、看護師が行うことができる範囲の行為であり、また試案によれば、B1・B2に関しては次の2つの条件を満たせば、認証を受けていない看護師も特定行為を行うことができるため、能力認証制度を設けることで、法律上の「診療の補助」の範囲が明確化されることにもなります。

医師の具体的指示+安全管理体制の整備
尚、認証を受けた看護師については、医師又は歯科医師の包括的指示のもとで特定行為を実施することが認められます。

「安全管理体制」の意義

(2)認証を受けた看護師に期待される役割 ~在宅医療での実践

厚労省試案における認証の条件としては、厚生労働大臣指定の研修機関における教育研修(8ヶ月を想定)の修了のほか、骨子案で挙げられていたように、認証を受けた後も継続して資質向上を図るべく、必要知識・技能に関する研修の受講が義務付けられると推測されます。
そのため、中小病院や診療所に勤務する看護師にとっては、これら特定行為を含む業務を行うために要する知識や技能に関する研修も、また継続して研修を受講することも、難しい状況にあるかもしれません。
一方では、看護師サイドの受け止め方として、「認証を受けた看護師が現場のロールモデルとなることで、看護職のレベル全体の底上げにつながる」点に期待感を持つ意見もあります。
例えば、在宅医療の場で、指定研修終了後に認証を受けた看護師が現場のリーダーとして活躍する姿は、後に続く職員の大きな刺激となるはずであり、また新たなモチベーション向上に作用することも期待できるのです。

マンパワーが不足する現場での役割と在宅療養支援の役割
以上のように、看護師の能力を認証する制度の創設は、チーム医療の推進(=医師の業務負担軽減)と、より高い専門性を有する看護師が果たすべき役割という2つの効果が期待されています。

2.診療所や在宅医療で期待されるこれからの看護師の役割

厚労省の試案では、指定研修のカリキュラムの最低基準として示したものに加えて、大学院や研修機関が自由に教育内容を追加することも提案していますが、現在行われている認定看護師や専門看護師養成課程において、関連する専門領域の特定行為の習得を可能とするなど、認定・専門看護師教育の組み入れも想定しています。
ただし、厚生労働省が大学院修士課程について提示する、急性期と慢性期のカリキュラムを共通とする点については、2年間の修業年限では困難であるという意見が強く、最終的には「在宅医療支援分野」など、関連分野別に区分したカリキュラムに落ち着くのではないかとみられています。
その場合には、現行の在宅療養支援診療所(病院)、あるいは今次診療報酬改定で登場した機能強化型在宅療養支援診療所や、訪問看護ステーションにおいて、認証を受けた看護師の専門性が大きく機能する場になると期待できます。

特定行為に関する知識・技術の習得後のイメージ
例えば、訪問看護の場合には、医師の具体的な指示を示すものとして「訪問看護指示書」が必要ですが、認証を受けた看護師が訪問するケースでは、医師の指示は包括的なものでよいとされ、研修課程(8ヶ月間を想定)で皮膚・排泄ケア領域の特定行為に関する研修を修了した看護師が担当することで、医師による個別の具体的指示を仰ぐことなく、迅速な処置が可能になるはずです。
また、修士課程で幅広く特定行為を習得した看護師にあっては、在宅療養中の症状悪化や緊急時においても、医師の包括的指示に基づいて総合的な見地から特定行為を行うことができ、的確に対応することができるでしょう。
医療における人材不足は、早晩解決できる課題ではありません。
しかし、医師や看護師、コメディカルで構成するチーム医療の実践により、業務負担の軽減を図ることができます。
その中で診療補助を担う看護師業務範囲の拡大については、重要な意義があります。
法制化に向けては、今後法案の提出と国会での議論を経る必要があり、成立までにまだ時間を要することになりますが、病院だけではなく、診療所や在宅医療の場面でも、専門性の高い研修を修了し、身に付けた能力について認証を受けた看護師の役割は、地域医療を支える診療所でこそ、その活躍の可能性が期待されています。

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