平成23年受療行動調査概況にみる患者の期待と満足度向上のポイント

1.受診に際して患者が重視する項目と情報源

1.受診先を選ぶ際に患者は何を重視するか

患者は、受診医療機関を選ぶうえで、何らかの理由があることがほとんどです。
厚労省の受療行動調査では、患者の来院動機を把握するために項目を設定し、結果を得ています。

(1)受診先の選択時に重視したもの

病院を選んだ理由の中で「重視したものがある」と回答したケースについて、重視した理由をみると、外来は「自宅や職場・学校に近い」(15.7%)、入院は「医師による紹介」(19.2%)を挙げています(「最も重視」「2番目に重視」「3番目に重視」を3ポイントから順に重みづけし、総合ポイントに対する割合を算出した)。
これらの結果は、(1)で述べた「選んだ理由」の上位項目に挙げられたものでもあり、(1)が複数回答を可とした条件を加えると、外来・入院ともに最も重視した理由となったことが頷けます。

誰でも精神障害患者になる可能性がある

(2)受診先を選択する際の情報源

病院を選択する際に「情報を入手した」という回答は、外来で51.6%、入院が55.3%を示し、半数以上が何らかの情報入手を行った一方で、「特に情報は入手していない」との回答は、外来が38.8%、入院が35.3%という結果となりました。
そして、病院を選択する際の情報源を項目別にみると、「医療機関の相談窓口」が外来 (26.0%)、入院(42.4%)とも最も多く、次いで「病院が発信するインターネットの情報」 (外来13.2%、入院10.6%)、「病院の看板やパンフレットなどの広告」が外来11.9%、 入院8.8%となっています(「その他」を除く)。

 

 

 

外来・入院別にみる「病院を選択する際の情報源」(複数回答)

尚、病院の種類別にみると、「その他」を除いた場合、外来・入院とも「医療機関の相談窓口」が最も多くなっており、次いで、療養型病院の「病院の看板やパンフレットなどの広告」以外、その他の種別の病院はすべて「病院が発信するインターネットの情報」が挙げられています。

2.と連携先を引きつける情報発信とコミュニケーションを目指す

受療行動調査で改めて把握できたのは、患者が受診先を選ぶ際には、特に外来の場合は自宅や職場等からの近さ(距離)を重視する傾向があることです。
また、このような利用交通機関を含む通院の利便性、自分が希望する治療が提供されているか等の情報については、医療機関の相談窓口のほか、医療機関が発信するインターネット情報で提供されている内容を検索し、入手しているケースが多いと推測できます。
つまり、患者にとってより有益な情報をインターネットで提供できれば、自院の診療圏内の患者が外来受診先を検討する際に、他院に比べて優位性が増すきっかけになります。

自院から発信するインターネット情報と患者の心情 ~イメージ
さらに、外来・入院ともに「医師からの紹介」、「以前に来たことがある」という項目が多く挙げられていた点にも留意が必要です。
これまで、連携先医療機関を増やす努力を続け、患者紹介・逆紹介の実績を積み上げてきた場合は、他院の医師からも信頼が厚く、良い関係を築けているはずです。
しかし、特に診療その他の多忙な業務に追われて、地域の医療機関・医師との「顔を合わせるコミュニケーション」を図る時間を取れない開業医の方は、連携先からの紹介患者を獲得する機 会を逃してしまっているケースが考えられます。
今後の医療政策においても、診療所が果たすべき役割として想定されているのは、医療・介護・福祉領域を含めた地域連携が基盤となるものです。
診療所は、診療圏内の住民に受診してもらい、必要に応じて入院施設や専門性のある医療機関へ紹介するという、「地域医療のゲートキーパー」たる存在を目指してくことが求められています。

3.その他の受診動機となる項目

(1)信憑性の高い口コミによる受診

受療行動調査の項目の上位に位置しているのが、「家族・友人・知人からのすすめ」による受診です。
これは、プラスに作用する評価である一方、大きくマイナスに作用する評価でもあるため、満足度調査などにより評価のポイントを把握するとともに、不満因子に繋がる項目を重点的に排除する行動が必要となります。
「以前に来たことがある」という項目も、前回受診時に比較的良い印象があったとの評価ですから、それが他の患者への口コミに繋がっていると考えられます。

(2)専門性や医療技術のアピール

インターネットによる情報提供として、患者にとって有益な情報について、自院のホームページなどを活用し、積極的にアピールすることは有効です。特に、診療実績などその専門性や医療技術については、受療行動調査結果が示すように重視されている項目でもあり、広く周知を図る取り組みを推進すべきでしょう。

公開すべき「診療実績」と医療機関選択の軸

2.外来患者が満足・不満を感じる項目とは

1.待ち時間と診察時間

患者満足度調査やアンケート調査を実施すると、不満を感じる項目として必ず上位に挙げられるのは、外来患者の待ち時間の長さです。
今回の受療行動調査において、外来患者の診察までの待ち時間及び診察時間をみると、待ち時間は「15分未満」が21.6%、「15分以上30分未満」では22.6%、さらに「30分以上1時間未満」が21.0%であり、全体では、待ち時間が1時間未満である割合が多くなっています。
一方、診察時間は「3分以上10分未満」が38.0%と最も多く、次いで、「10分以上20分未満」(21.8%)、「3分未満」(13.8%)となりました。

病院種別にみた「外来患者の診察までの待ち時間・診察時間」
待ち時間には、受付から診察までの待ち時間のほか、診察・治療が終わってから会計までの時間、また院内処方で薬剤が渡されるまでの時間なども含まれますが、外来患者が最も長く感じるのは診察までの待ち時間だといわれます。
一方で診察については、業務多忙のために、十分な時間を確保できていない現状があるようです。

2.外来患者の全体的満足度

受診した病院を全体として「満足」しているという回答は49.7%、一方「不満」と回答した者は4.4%という数字です。
ただし、これは必ずしも患者の真意を反映させていないかもしれません。
つまり、実際には不満を感じている外来患者が潜在化している可能性があり、それは後述の「不満を感じた時の行動」での回答に表れています。
病院の種類別にみると、「満足」と回答した者は、特定機能病院が57.1%、小病院52.2%、 大病院51.1%と続きます。
一方、「不満」と回答した者は、中病院が5.2%と最も多くなっ ており、大病院が5.1%、特定機能病院が4.6%の順になっています。

病院種類別にみた「外来患者の病院に対する全体的な満足度」

3.外来患者の項目別満足度

外来患者の項目別の満足度では、「満足」の割合が最も多いのは「医師以外の病院スタッフの対応」(49.3%)、そして「医師との対話」(48.8%)、「医師による診療・治療内容」(46.7%) と続いています。
外来患者の項目別満足度
一方、「不満」の割合が最も多いのは「診察までの待ち時間」(25.3%)、次いで「診察時間」(7.8%)、「精神的なケア」(6.0%)となっています。
外来患者は、こうした待ち時間・診療時間に対して、何らかの不満を抱えている場合であっても、予め想定していたり、諦めて長時間待つことを受け入れていたりしているケースも多くなっています。
そのため、自院の待ち時間の長さは気付いていても、患者からの不満や苦情がそう多くは届かないことで、自院にとっての経営課題であると認識できず、具体的な改善活動に結び付けられない医療機関もあります。
さらには、「精神的なケア」によって、外来受診時には不安や苦痛を取り除いてほしいという希望があるにも関わらず、満たされていないという状況が窺われます。

4.ポートフォリオ分析による不満因子の把握

患者満足度調査結果に基づく分析手法としては、ポートフォリオ分析が有効です。
この手法により自院の強みや弱みを明確にし、何を最優先に改善すべきかの判断材料とします。
下記グラフの例では、水色で表示した項目(診療サービス全般、各科診療受付応対、医師の態度等)が強みとなり、評価が低下しないような取組みが求められます。
一方、赤色で表示した項目(施設面全般、接遇面全般、プライバイシーへの配慮等)は弱みであるといえることから、重点改善項目となります。

ポートフォリオ分析事例

3.患者満足度をアップする取り組みポイント

1.待ち時間の短縮

患者満足度の向上には、その前提として外来患者の待ち時間調査結果に関する分析が必要です。
単に待ち時間が何分だったかという結果以上に、どこにどれだけの時間がかかったのかについて、詳細な分析が求められます。

(1)区分別時間の短縮

実施した待ち時間調査の結果から、どのポイントで待ち時間が多いのかを分析し、その区分における患者の動線、およびモノ(カルテ、伝票類)の運搬等の業務全般の流れを確認します。

待ち時間調査結果の事例
上記の例でみると、最も待ち時間が長いのは(4)の「診察から会計まで」の区分で、次いで(2)の「カルテを出してから診察室に呼びこまれるまで」、そして(1)の「受付からカルテ出 しまで」の各時間区分となっています。
これにより、最優先で検討しなければならないのは、診察後の動線や会計処理能力だといえます。
診察終了後は速やかにカルテや検査伝票類が会計に届くシステムになっているのか、会計担当職員は正確かつ迅速に処理できるスキルを備えているか、現金収納手順にムダがないか等を確認して、これらの効率性を改善する取り組みが必要です。

(2)予約診療の検討

診療の予約化によって、前述の事例における(1)、(2)の時間区分を飛躍的に短縮すること が可能となり、結果として患者満足度の向上が期待できます。
予約診療を実施する上での注意点には、以下の点が挙げられます。

予約診療の注意点
予約診療は、各患者の予約時間が守られてこそ患者満足につながります。
したがって、予約時間が遵守されない場合にはトラブルに直結するリスクがあることを十分念頭に置いておくことが必要です。

2.待つことの苦痛を軽減する

患者アンケートなどをみると、待ち時間の長さへの不満以上に「いつ診察室に呼ばれるかがわからない」ことに対するストレスが大きいことがわかります。
したがって、待つことの苦痛を軽減することにより、患者の満足度は大きく改善されることが期待できます。

(1)一般的な苦痛軽減方法

最初に実践すべき取組みとしては、待ち時間を過ごすための環境整備が挙げられます。待ち時間の苦

痛軽減に向けた取り組み
近年は大型液晶テレビの価格が低下している状況でもあり、テレビ放送を漫然と流すよりも、インフォメーションボードとして積極的に活用することが効果的です。

(2)システム導入による苦痛軽減

(1)については、既に着手しているクリニックも多く、当たり前基準となってきていると いえます。
そのため、さらに患者目線に立った取り組みで満足度を上げるためには、様々なシステムの導入も検討する必要があります。

システム導入による取り組み
PHS貸与の場合は患者個別の対応となるため、院内にいなくても直接呼び出しできるというメリットはありますが、初期費用の問題やPHS端末の紛失などのリスクがあります。
一方、待ち受け表示システムに関しては、従来前提条件としてオーダリングや電子カルテの環境が必要であるとともに、構築費用は400~500万円を要するとされます。
しかし、最近では大型液晶テレビと院内のパソコンを利用した安価なシステムも登場しています。
これはいわゆる「銀行方式」の簡易的な患者呼び出しシステムで、受付した番号札により、診察室入口や会計窓口に設置した液晶テレビにその番号を表示するシステムです。

患者待ち受けシステムの基本構成
このシステムでは、現在診察中あるいは会計中の患者の番号を液晶テレビに表示したり、テロップを流したりなど、インフォメーションボードとしての機能も備えており、患者目線に立ったシステム構築を実現しています。

3.満足度を向上するための基本的事項

患者の不満因子は、この10 年の受療行動調査結果を見ても、大きな変容はありません。
つまり、社会環境は変化しても、患者の不満の対象は待ち時間の長さや医療費負担であり、 また職員の接遇に関する事項です。
これらについては、マイナスの評価であることを認識したうえで、当面はゼロレベルにする改善を進め、基本的な項目をクリアしてからプラス評価を目指していく、というステップアップが必要です。
待ち時間というテーマに関し、一定の費用投下が必要な改善策は前述していますが、ゼロレベルの対応ポイントでは、職員一人ひとりが患者目線に立った応対をするという原点に立ち返った取組みが重要となります。こうした基本的事項の積み重ねによって、初めてプラスの評価につながるということを認識しなければなりません。

(1)患者の気持ちを理解する

近年ではインフォームドコンセントが徹底され、患者の同意のもとに医療が展開されるに伴い、セカンドオピニオンも推進されています。
これは医療の自己決定権を促す上で積極的に展開すべきではあるものの、患者側、特に高齢の患者などは他院紹介の希望を言い出せない可能性もあります。
このような患者の気持ちを医師は十分に理解して、患者からの申し出を受けてから紹介するというレベルから、患者の想いをくみ取り、自ら進んで他院を紹介するような配慮も必要です。

(2)敬意を持った患者対応を意識する

医療人としての心構えはもちろんですが、まず人として尊敬の念を忘れずに患者に接することが求められます。
さらに重要なのは、院長や医師が率先して行うということです。
その結果、職員にも浸透し、自然と接遇面で評価される環境が構築されていくはずです。患者対応の

心構え~基本的なマナー
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