2025年へのロードマップ 医療業界の最新動向と今後の展望

1.医療・介護保険の現状と今後

2012年診療報酬・介護報酬同時改定の位置づけ

2012年度は、診療報酬と介護報酬が同時に改定され、団塊の世代がすべて75歳以上を迎える2025年に向かって「医療保険と介護保険の連携・融合」が本格的にスタートする年になります。

(1)医療・介護関連制度改定の経緯と背景

1973年に導入された老人医療費公費負担制度を端緒として、増加し続ける高齢者の医療費財源負担をめぐっては、老人保健制度(1983年)、介護保険制度(2000年)の各導入という社会保障制度の大きな改革を経て、2012年度の診療報酬・介護報酬同時改定を迎えま した。
今次の同時改定については、厚生労働省側も「12年度改定は2025年度の社会保障改革に向けた第一歩として検討してきた」と明示したうえで、医療現場においても25年度改革を意識した取り組みを要請しています(今次診療報酬改定説明会において同省保険局医療課・迫井正深企画官)。
一方で、介護保険料は上昇の一途にあり、2010年度介護給付費は総額7兆9308億円(前年比 4.9%増)、受給者数は411万人(月平均)に上っています。

介護保険料の推移
医療機関にとっては、収入に直結するため診療報酬改定は直近の対応という認識になりがちですが、介護保険との連携・融合への流れも踏まえ、2025年までの間に改革が進められる社会保障制度の全体像をいち早く把握し、これに対応できる体制づくりを図る必要があります。

(2)毎年1兆円ずつ増える医療費

平成21年の国民医療費総額は36兆円を超えており、前年度に比べて3.4%の伸びとなりました。
年次推移でみると、平成12年の介護保険制度導入以降は、医療費のうち介護保険費用に移行したものを除いたにもかかわらず、国民医療費は年1兆円ずつ増大していることがわかります。
しかし、諸外国との比較では、決して医療費が安いのではなく、少ない医療費で健康を維持していると言い換えることもできます。
さらに、日本は高齢化社会であり、医療ニーズの高い年代層が今後も増加するため、これら医療費の負担について、保険者および財源問題に直面することになります。

国民医療費の年次推移

(3)高齢者対策の仕上げ ~2025年に向かって

日本は既に2005年をピークに人口減少に転じており、今後2015年を境に世帯数が減少していきます。
この間にも少子高齢化は加速し、日本は「超高齢多死社会」を迎え、2050年の日本人平均年齢は56.2歳に達しているという推計があります。

平成18年以降の人口推計

(2)高齢者単身世帯の増加

高齢者人口の増加に伴い高齢者単身世帯の割合も増えて、2007年(平成19年)では既に23%を超えており、医療・介護を受ける際に必要な家族等のサポートを得られないケースに対して、社会保障の仕組みの中での支援がより重要性を増してきました。

高齢者単身世帯の増加 ~出典:国民生活基礎調査結果に基づく作成資料

(3)新たな高齢者医療制度の構築へ

社会の高齢化によって、急増する死亡者をどこで看取るか、すなわち国民にとっては「亡くなる場所をどう考えるのか」という問題でもあります。
終末期医療に関する報告(*)によれば、2000年現在、病院で亡くなる要介護高齢者は81%に達している一方で、自宅で亡くなる方は全体の13.9%に過ぎず、自宅や居住施設な ど住み慣れた場所で終末期を迎えたいという高齢者の希望に相応していないという現状が あります。
(*)医療経済研究機構「要介護高齢者の終末期における医療に関する研究報告書」より死亡場所を、(1)病院、(2)ナーシングホーム・ケア付き住宅、(3)自宅、(4)その他、の4つに分類。
死亡 数等は厚生労働省大臣官房統計情報部「人口動態統計・2000 年」を用い、(2)には介護老人保健施設を含んでいる。
今後は、医療と介護の現場が在宅中心となる傾向が一層強まるため、後期高齢者に係る医療制度の見直しは、2025年に向けた医療関連政策の重要な柱の一つでもあります。
廃止方針が明示されている「後期高齢者医療制度」については、これに代わる新たな高齢者医療制度法案の提出・成立を受けて、今期通常国会に廃止法案が提出され、2013年4月から新制度が施行となる予定です。
その詳細については、保険料負担やその割合など財源の問題検討や、政権動向の影響も懸念されますが、2025年度社会保障改革の布石として、 高齢者医療の在り方を左右するものとして注視していくことが必要です。

新たな高齢者医療制度創設までのスケジュール

2.2012年診療・介護報酬同時改定の視点

2012年同時改定の焦点

2012年診療・介護報酬同時改定は、医療と介護の機能分化と連携強化を目的とし、介護と重なる部分で評価の新設と見直しが行われました。
特に在宅医療の重視は、近年の診療報酬改定の柱となっていますが、在宅医療は介護を行う場でもあるにもかかわらず、制度的な手当てが遅れていたという問題があります。
よって、今後は介護に比重を移した事業 の再編が必要になるといえます。

(1)急性期医療の絞り込み

急性期病院であることを目指し、事業の拡大に取り組んできた病院も少なくありませんが、今後は機能や専門性の高さが一層求められるようになります。自院で完結しようとする急性期医療の推進は、今や困難であるといえます。
2010年以降の医療・介護需要予測をみると、2015年を機に、医療需要に比べて介護需要が極めて高くなるという推計があります。
在宅医療と介護が重なり合う以上、介護との「相乗り」は、診療報酬において今後も増えてくるかもしれません。

全国の医療・介護需要予測 ~2010年からの20年間
一方で、制度化が進められている急性期病床群(仮称)の基本的考え方は、これまであいまいだった急性期病床の基準を明確化し、診療報酬上でも当該施設基準を満たさない場合には点数が算定できないようにし、一般病床における機能を明確に区分することでもあります。
しかし、急性期病床群の認定を受けていない一般病床であっても、入院治療などの急性期医療を行うことができるため、そもそも「一般病床」という区分の意味が薄らいでしまうようになります。

平均在院日数の実態と施設基準
上記のように、一般病床の中でも入院基本料が下位の施設基準を算定している病棟においては、施設基準に掲げる日数を大幅に超え、平均在院日数が91日を超える患者が相当数存在するという実態があります。
急性期病床における平均在院日数は今後より短縮に向けて取り組まれ、2025年には一般急性期で10日を切るレベルとなると予測されます。
現在急性期を担う医療機関においては、1年に1日ずつ短縮するための取り組みが必須となります。

(2)地域包括医療の強化

「超高齢多死社会」到来という環境変化に対応するためには、医療と介護のネットワークを構築し、急増する高齢者を地域で支える仕組みづくりが必要です。
また、「医療は身近な生活圏で行う」という考え方から、地域包括医療の強化を目指しています。
このような背景から、医療・介護の提供体制においては、機能を分化し、重層的に住民を支える医療・ 介護サービスのネットワーク構築を目指すという方向性が示されています。

医療・介護の提供体制 ~2011年6月2日第10回社会保障改革に関する集中検討会議より

医療・介護の再編と収益確保

(1)医療と介護のはざま

医療・介護サービスの需要と供給 ~第10回社会保障改革に関する集中検討会議資料より

(2)医療・介護機能の再編

厚生労働省は、患者ニーズに応じた病院・病床機能の役割分担や、医療機関相互および医療と介護の間の連携強化を通じて、より効果的・効率的な医療・介護サービス提供体制を構築するという改革の方向性を示しています。
そして、医療・介護保険の相乗りは、患者・利用者が双方を同時に利用できるメリットがありますが、今後より一層の医療・介護の融合を図る際には、非効率性と不合理性が併存しているため、これらを解消していく改革が求められています。

機能と連携に着目した医療・介護制度改革の方向性 ~在宅医療の観点から

3.医療と介護の接点 ~高齢者医療・介護のあり方

超高齢社会の長期ビジョンが早急に求められている

(1)高齢者社会を支える人口

2015年以降の日本においては、人口・世帯数、および高齢者数ともに減少傾向が強まります。
現在は高齢者1人を若年層2.8人で支え、2025年では2.0人で高齢者1人を支える「騎馬戦型」の社会保障制度は、2050年には1.3人で1人の高齢者を支える状況となる推計です。
そのため、高齢者医療制度の見直しのみならず、目先の課題に翻弄されることなく、将来を見据えた長期ビジョンの早急な提示が求められています。

高齢者1人を支える若年層の推計

(2)政策立案の時間軸 ~2025年までの改革

高齢者1人を支える若年層の推計

社会保障改革の今後

2025年までに迎える予定の診療・介護報酬同時改定は2024 年度が最終です。
つまり、高齢者医療への対策はこの同時改定が最後の機会になるといえますから、社会保障制度は この時点での完成を目指して、様々な政策立案を重ねていくことになります。

(1)社会保障・税一体改革における位置づけ

社会保障・税一体改革における医療・介護の機能分化と連携

(2)医療費適正化計画の基本的考え方

医療費適正化計画は、平成20年度を初年度とする5年計画として、次のような政策目標(*)を掲げ、医療費の伸びを適正化することを目的に、国及び都道府県において策定されています。

医療費適正化計画の基本的考え方

医療提供体制の再整備

(1)医療提供体制を考える視点

医療提供体制を考える視点

(2)人材開発

医療提供体制整備に向けて、人材開発は最も重要な要素です。
これに関連し、専門医制度については見直しが進められており、専門医の定義を明確化すべく、厚生労働省検討会が2012年度末に最終報告を行う予定ですが、現状の人材不足を直ちに補うには間に合いません。
そのため、プライマリ・ケアの担い手として、次の3つの職種が期待されています。
これら職種が増えることで、層が厚くなるからです。

プライマリ・ケアの担い手

(3)介護の充実と高齢者住宅の問題

超高齢化社会の到来と切り離せない問題として、高齢者にふさわしい医療と介護のあり方を考え、当事者である高齢者のニーズに対応できる体制が求められます。
同時に、病院ではなく地域で療養し、生活する高齢者のために備えるべき機能が不可欠です。
そのため、地域包括ケアシステムの推進やサービス付高齢者住宅の整備等が進められてきましたが、前者は未だ観念的部分がありマネジメント機能に課題を残していること、また後者はビジネス的視点で事業に進出するケースも多く、しばらくはトラブルが潜在化した状況が続くと考えられます。
いずれも、早期に制度が成熟することが望まれます。
さらに、在宅ケアをめぐっては、比較的健康に生活できる高齢者のための医療費の使い方についても、検討の余地があります。
複合型サービスや看取り機能の強化など、高齢者医療・介護の接点における事業展開は、今後の政策動向を見極めて取り組むことが重要です。

諸外国の取り組みに学ぶ

医療分野について日本と諸外国を比較した結果が、次のように報告されています。

医療分野における国際比較(2008年)

(1)かかりつけ医の普及と長期慢性疾患対策 ~フランス

病床全体に占める急性期病床の割合が低いことで、日本の医療実態に似ているとされるフランスでは、2004 年に開始された「かかりつけ医制度」の普及が進みました。同時に長期慢性期医療に対して成果報酬と疾患管理制度を導入して、医療費の増加率と国民一人当たり医療費が下がり、これらの取り組みが効果を上げたといえます。

(2)医療ツーリズムの推進~韓国

韓国では、「MEDICAL KOREA」をブランドとして掲げ、医療法の改定も実したうえで、安全で先進的、かつ高いレベルの医療技術をアピールすることによって、外国人患者の誘致を図っています。
併せて、医療ツーリズム産業を活性するために、専門人材を確保し、積極的広報マーケティングを行うとともに、システム構築を進めることで、近年は医療機関に活性化がみられるようになりました。
諸外国の政策がそのまま日本に合致するものではありませんが、国際水準の質・サービスを備えながら、一定の成果を挙げた各国の例は、今後の日本における医療関連事業展開にも有効なヒントとなるはずです。

*本レポートは、 平成24年4月10日、株式会社ビズアップ総研において開催された医業コンサルティング研究会「医療 業界の最新動向と今後の展望」(講師:日本医業経営コンサルタント協会 盛 宮喜氏)の講演内容よりテキストを参考に抄録として再構成したものです。

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