勝てる市場で勝負する ターゲット・マーケティングの実践法

1.ターゲット・マーケティングとは

1.ターゲット・マーケティングとは

かつては、企業がよい商品を作り、良心的な価格をつければ売れるという時代でした。
大量生産を行い、大量販売をすることで企業は成長してきましたが、現在は市場が成熟化し、右肩上がりの成長は望めません。
消費者のニーズもこれまで以上に多様化しており、顧客の嗜好を満足させなければ企業は生き残れない時代になってきています。
市場を分析するときにおいても、以前に比べより詳細な分析が必要であり、市場の中で勝ち残っていくためには、その時のトレンドを把握し、市場を細分化しターゲットを選定しなければなりません。
今回においては、ターゲット・マーケティングにおける市場細分化からターゲット選定までの流れを解説致します。

(1)ターゲット・マーケティングの定義

ターゲット・マーケティングとは、自社が狙っている市場をターゲット(標的)として集中してマーケット活動を展開することです。
P・コトラーは下記のように定義づけています。

ターゲット・マーケティングの定義

(2)マーケティング戦略の策定プロセス

マーケティング戦略の策定プロセス
ターゲット・マーケティングは、マーケット戦略において、戦略の方向性を決める重要な位置付けとなります。
どの市場にターゲットを当てれば時流に乗ることができるのか、顧客の支持を得ることができるのか、戦略策定において一番力を入れなければならない過程です。

値上げに成功した中堅スーパー

 

売り込み先を絞り込んだ粉ミルクメーカー
上記の2つの事例にわかるように、市場を詳細に分析し、どの市場の消費者にターゲットを絞るかを明確にすることにより、売上や利益の増加が可能となります。

2.ターゲット・マーケティング活動の効果

ターゲット・マーケティングを実施することにより、顧客対応、競争優位、コストの有効活用への効果が期待できます。

(1)顧客対応

ターゲット・マーケティングの効果は、顧客ニーズに対し、きめ細やかな対応が可能となることと、市場分析においても対象が絞られるため、市場特性の理解と把握を比較的短時間で、かつ正確に把握することができるということです。
市場の特定により、対象顧客を限定することになり、顧客のニーズを適切に把握し対応することが出来るようになります。

(2)競争優位

標的市場を明確し、顧客を絞り込むことにより、そのセグメントがどのようなニーズを持っているのかが明らかとなります。
ニーズを満たすためには、どのような商品・サービ スを提供すべきかも明白となります。
市場を特競合他社と自社との違いを明確にすることができ、今後の市場における有利な商品戦略を立案することが可能となります。

(3)コスト

市場を絞り込むことにより、自社が標的とする市場にのみコストを集中させることが出来ます。
自社が対象としない市場に対しコストをかける必要はなくなり、コストを有効に活用することが出来ます。

2.市場を細分化するポイント

1.ターゲットを絞る3つのステップ

自社が狙うターゲットを明確にするには3つのステップがあります。
第1のステップは「セグメンテーション」です。
ここでは、顧客分析を行い市場・顧客 のグループ分けをします。
第2のステップは「ターゲティング」です。
ここでは、いくつかに分けたセグメントの中で自社が狙うマーケティング活動を中心とする顧客の選択を行います。
ここのポイントは、そのセグメントの将来性、自社の強みが活かせるかという点が重要です。
第3のステップは「ポジショニング」です。
ここでは、自社を選択してもらうためには 何をすべきか、という方針を決めます。

自社が標的とするターゲットの特定

2.市場を細分化する方法 ~セグメンテーション

ステップ1はセグメンテーションです。
セグメンテーションは、自社に最適な市場を絞 り込むための市場の切り分けを行います。
自社の目的に則した基準で切り分けを行ってい きます。
市場を細分化しなければならない理由は、市場は1つではなく、市場ニーズは必ずしも同一ではないためです。
市場は、多様なニーズで構成されています。
これを認識することが市場細分化のスタートです。
人は、1人ひとり嗜好が異なりますが、市場を構成する人々の何らかの共通点を見つけ出し、同じようなニーズを持つ集団に市場を細分化していきます。
その上で全ての消費者に同じ商品を売ろうとするのではなく、所得や年齢層、ライフスタイルに合わせた商品提供が求められます。

購入時間にて消費者を区分 市場細分化の切り口

(1)地域

市場を、都道府県、市町村などの地域、気候や人口密度など地理的条件に区分します。
消費者の嗜好は、地域により異なる場合があります。
例えば、うどんのつゆは関西と関東では全く異なります。
また、北海道と沖縄では気候が異なります。北海道では冬場にスタッドレスタイヤが必要になりますが、沖縄では雪が降らないためスタッドレスタイヤは必要ありません。
この ように、地理的な特性により市場を細分化する方法です。

(2)年齢、性別等

市場を年齢、性別、家族のライフサイクル、所得、学齢、職業などに基づいて区分します。
これを用いる理由は、消費者のニーズや欲求は、年齢や性別などに密接に関連しており、更に人口統計基準が年齢や性別を基に区分するため、他のタイプより分類しやすいためです。

(3)ライフスタイル

市場をライフスタイルや性格、パーソナリティに基づき区分します。
ライフスタイルは、消費者の価値観や心理的、行動的側面で構成されています。
このライフスタイルが、消費者の購買行動に大きな影響を与えています。

(4)消費者の購買行動

消費者の購買行動とは、個人の消費を目的にし、製品のサービスや購入する個人などの購買活動をいいます。
購買的基準は、製品の属性・知識、使用状況や使用形態に着目して区分する方法です。

市場細分化の際の留意点

(1)市場規模

市場の規模と消費者の購買力がどの程度あるセグメントなのか見極めることができるかが重要な点です。
このセグメントは、どのくらいの売上規模が確保できるかを試算できるかどうかがポイントになります。

(2)市場の将来性

その市場に持続性があるのかどうなのかという判断が必要です。たとえ選択したセグメントにて継続して売上を確保していかなければ利益を得ることはできません。

(3)市場へのアプローチ可能性

市場セグメントに効果的に到達でき、製品やサービスを提供し得るチャネルがあることが必要です。
市場を細分化しても、物理的にアプローチをすることが出来なければ意味は ありません。
こうした判断も必要になります。

(4)自社の経営資源

細分化された市場セグメントを惹きつけるような効果的なマーケティング・プログラムを設計できることが必要であり、自社にそれだけの能力やスタッフなどの経営資源が備わっていなければなりません。

3.勝てる市場を特定する方法

1.標的市場を明確にする方法 ~ターゲティング

市場細分化の次のステップは、標的とするセグメントをいくつか特定することになります。
ここでのポイントは市場の将来性と、自社の強みが十分に発揮するかできるかが重要となります。
ターゲット市場の選定方法は一般的に下記のように区分されています。

ターゲット市場の選定

セグメントを選定するにおいて効率性を考慮すると、ある程度の規模のセグメントを選定する必要があります。
しかし、規模が大きくても低価格でしか販売が出来ないようなセグメントであれば、コストを下げなければなりませんし、赤字になる可能性もあります。
一般的に競合が多い、技術力が必要ないなど参入障壁が低いセグメントの選択は望ましくありません。
セグメントを選択することは非常に重要となります。
これは、自社の事業ドメイン・企業理念とも密接にかかわる問題であるためです。
自社は何をする会社なのか軸がぶれないように判断しなければなりません。
中小企業においては、経営資源をいくつかに細分化する必要性がある差別化マーケティングより、経営資源を集中させる集中化マーケティングが適していると言えます。

ターゲット市場の選定基準

2.自社の競争戦略を検討する ~ポジショニング

ポジショニングとは、顧客に対し自社の製品・サービスの他社との違いをアピールするための方策を立案することです。
要するに、自社の製品・サービスの差別化の方向性を明確にして、顧客に自社を選択してもらうためにはどうすればいいのかを検討することです。

(1)差別化の種類

差別化は、商品での差別化、サービスでの差別化、人の差別化、イメージの差別化があります。

差別化の方向性

(1)商品の差別化

商品の機能、品質、デザインはどうかといったことです。
例えば、機能面、特に耐久性においての差別化として、ナイフでも切ることが出来ないビジネスバックが該当します。

(2)サービスの差別化

デリバリー・アフターサービスなどのサービスが行き届いているかということです。
具体的には、注文のしやすさ、配達の速さ、メンテナンス等のアフターサービス、顧客に対し商品を適切に使用できるようにすることが挙げられます。

(3)人の差別化

人を通した差別化は、教育された従業員による差別化です。
これは、「技能や知識」「礼儀」「迅速な対応」「信用できる一貫したサービス」などの提供による差別化です。

(4)イメージの差別化

イメージの差別化は、商品のステータス、使用感など情緒的な価値で差別化することです。
イメージを直接的にコントロールすることは難しいのですが、企業からの活動、情報発信により、自社の商品のいいイメージを消費者の心に残るようにすることです。
自社の方針を明確にし、それを実現するために何をしなければいけないのか、コストはどのくらいかかるのか、利益を確保することができるのか検討しなければなりません。
差別化を選択するには、競合他社よりも的確に顧客のニーズや購買プロセスを理解し、より多くの価値を提供することが出来るか否かの判断が必要となります。
競争優位性を確保するために、製品、サービス、スタッフ及びイメージの差別化を図りますが、更に、いくつかを組み合わせた差別化を図る必要があります。
いくつかの差別化を選択した場合においても消費者に売り込みを行う時には、自社製品がナンバーワンであることを売り込んでいくことが効果的です。

(2)マッピングによるアプローチ

差別化をどのように行うのかの方針決定をするにおいて、マッピングによるアプローチが有効です。
これは、いくつかの軸をとりマップを作成し、自社や他社の製品をマッピングする方法です。
他社と競合する製品と比較し、自社製品と他社製品の違いを明確にすることで、今後の方針決定に効果があります。
マッピングに空白箇所があれば、新製品で差別化を図ることも可能ですし、自社製品と同じカテゴリーに複数の製品が有る場合には、それぞれの製品の特徴を見極める方針を決定します。

お茶のマッピングの事例

(3)販売活動

ポジションを選択したら、企業はターゲットとする消費者に自社が望むポジションを伝達し、広めていかなければなりません。
目標達成を効果的に行うためには、第1 章で解説している通り、製品、価格、流通、広告に関し戦略計画を立案しなければなりません。

販売活動

 

小家族に特化した中堅スーパー 3歳未満の子供をターゲットした玩具メーカー

最後に

ターゲット・マーケティングは、大企業だけのものではなく中小企業においても取り組むことができる手法です。
選定した市場において自社の強みを発揮することにより、市場における既存顧客の満足を得、なおかつ新規顧客の囲い込みをすることが可能になります。
経営資源の乏しい中小企業にとっては、大きな市場を細分化し、自社のターゲット市場を明確にすることにより経営資源を有効活用することができます。
自社の強みを発揮できる市場にて、安定した経営活動を行っていくことが可能となります。

■参考文献
『ターゲット・マーケティング(同文館出版)』経営教育総合研究所 山口正浩 監修
『マーケティング実践講座(ダイヤモンド社)』須藤 美和
『ヒットの経営学(日本経済新聞出版)』日本経済新聞社 編

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