自社の利益にも直結!良い職場風土を築くための職場改善活動

1.良い組織風土づくりが必要な理由

1.景気回復に伴い顧客ニーズは変わってきている

昨年の政権交代以降、景気は回復傾向にあります。
それを裏付けるデータとして、昨年、日経平均株価は16,000円を超えました。
さらに、景気動向を表す実質GDP成長率は、2013年7〜9月期では、前期比+0.3%(年率換算+1.1%)と四半期連続のプラスにもなっています。
このようなデータが示すとおり、景気は着実に回復しており、その恩恵として大企業の業績は上向いてきています。
しかし、中小企業においては、まだ景気回復の実感が持てない経営者も多いという実態もあります。
一方、消費者ニーズにおいては、景気低迷期には、とにかく安い商品がもてはやされていましたが、景気回復に伴い、「プチ贅沢」などの言葉が示すように、ある特定の商品については、高額商品も売れるようになってきています。
このように景気回復により消費者ニーズは変革してきていますが、そのニーズに対応できずに既存商品・サービスや古い価値観にこだわり続けている企業は、景気回復の波に乗れずに業績が低迷したままの状況になってしまう可能性もあります。

2.変革できる組織にするためには、組織風土の変革が必要

自社が今後、成長していくためには、従来のビジネスモデルにこだわるばかりでなく、変革していかなければなりません。
しかし、自社の方針が社員に浸透していない、古い価値観にこだわっている、あるいは、社内コミュニケーションが悪いなどの状況を抱えていると、自社を変革させていくことは難しくなります。
自社が以下のような状況に当てはまる場合には、経営者は、早期に組織風土を変革させることに注力していかなければなりません。

停滞している組織に見られる傾向

3.組織風土改善の意義と効果

今後の経営者は、経営環境にも対応し、業績向上を実現させる組織にするために、良い組織風土をつくることにも注力しなければなりません。
良い組織風土とは、「社員一人ひとりがビジョンを共有し、あらゆる経営環境変化にも対応できるよう常に変化しながら進化できる組織」です。
このような組織風土を築き上げるためには、以下のような取り組みが必要となります。

組織風土改善に向けて取り組むべき項目、組織風土変革により期待される効果

4.組織風土改善につながる2つの取り組み

良い組織風土をつくるためには、以下の2つのアプローチが必要となります。

組織風土変革を促す2つのアプローチ
一つは、経営者が自ら先頭に立ち、システム、諸規則を変革させることです。
もう一つは、社員一人ひとりに対して、仕事の定義づけ、仕事の進め方、および価値観の浸透など、行動面を変革させることです。
今回は、後者の社員一人ひとりの取り組みに着目し、自律した社員になり、自社に貢献できるための取り組みについて、具体的なアプローチ方法をまとめています。

2.社員の意識を変え、組織を変革させる活動ポイント

1.自社を変革する目的と危機感を共有し、変革に向けた活動を行う

自社が変革していくために、まず最初に考えるべきことは、自社の組織風土を何のために変革を行うのかについて社内で共有することです。
その意義が共有化されないと、全社一体的な活動に支障をきたしてしまうからです。
変革の必要性の共有化は、危機感の共有とも言えます。
危機感の共有ができたら、次に自社の将来のあるべき姿を描きます。
その後、具体的に取り組むべき課題を設定し、目指す方向(ゴール)に向かって、社員全体で改善活動を展開していくことになります。

社員自身が主体となった組織風土変革プロセス

2.社員を変革活動に主体的に参加させるポイント

人は、自分自身で考え、納得して活動することで、モチベーションが喚起され、大きな成果を上げることが期待できます。
したがって、経営者としては、社員が主体的に取り組めるよう環境づくりを行い、社員のモチベーション向上につなげていくことが必要となります。
取り組みポイントを整理すると、以下の3つにまとめられます。

(1)自己決定感、自律感を重視する

社員により洗い出された取り組み課題については、自発的に行うことができる環境をつくることです。
経営者は、社員間の議論によって進むべき方向がずれてしまった場面において、自社の理念・ビジョンの再認識させ、軌道修正させる役割を担います。

(2)達成感を持たせる

社員の成功体験から得られる効果は計り知れません。
「やればできる」という達成感が得られ、自信を持つことができる機会を多くつくっていくことは、社員の成長に大きく寄与します。

(3)チームワークの醸成

全社員参加型のプロジェクトを進めることは、チームワークの醸成にもつながります。
その活動においては、組織横断的にメンバーを組むことで、他部署、他部門との交流の機会にもなり、活動を通じて社員の一体感が増すことが期待できます。

3.社員に理念を共有させ、社員の意識を変える

何かを伝達する場合には、どんなに優秀な人同士であっても、自分が言いたいことのせいぜい7割程度しか伝わらないと言われています。
自社において、自社の理念やビジョンについて、社長が部長へ、部長が課長へ、さらに課長が社員へ伝えようとすると、社員には社長が伝えたいことの2割程度しか伝わらないということです。
つまり、理念を社員一人ひとりまで浸透し、共有するためには、社長からのトップダウンばかりでなく、社員自身でも考え、具体的に何をすべきであるのかについて検討させる機会をつくることも重要となります。

理念を社員全体に浸透・共有させるための具体的取り組み

4.組織風土の変革に対する抵抗勢力への対応

組織風土を変えるということは簡単ではありません。
ときに、変革に対する抵抗勢力が現れるかも知れません。
どんな改革にも必ず抵抗勢力がいることを前提にして、それらの勢力に対抗するための取り組みも重要となります。
それらに対する対応策は以下の通りです。

抵抗勢力への対応策

5.5S活動で職場規律を維持させる

「5S活動」は品質管理、能率向上、危険防止などの観点から特に製造業や建設業では職場環境の維持・改善を推進するスローガンとして重要視されているものであり、工場などにおいて日々徹底されている活動です。
この「5S活動」は、上記のような業種にとどまらず、職場規律の維持、生産性向上を図る上では、どの企業においても徹底して取り組むべき基本的な活動であると言えます。
5Sとは「整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)」をローマ字読みした際の頭文字の「S」を引用したものですが、5Sの定義は一般的に以下のように説明されます。
5S活動は、良い組織風土づくりにおいても重要な活動です。
この5S活動の具体的取り組みポイントについては、次章において解説します。

5S活動で職場規律を維持させる

3.職場環境改善に有効となる5S活動の進め方

1.5S活動で職場環境を変える

5S活動は、行動の習慣や意識にも影響を与えます。
また、問題箇所を捉えて対策をする過程で、改善マインドを育む効果もあるため、組織風土の変革にも効果が期待できます。
5S活動によって、利益を生む、無駄がなくなるなど、大きな効果が期待できる活動であり、良い職場風土にもつながる活動です。
以下に、5S活動の目的を整理しました。

5S活動の目的

お客様や近隣企業、地域住民から信頼される企業になることは、永続的に経営していく上で重要なことであると言えます。
これには3つの意味があります。
1つ目は「顧客に勧めているものは自社の集大成であり、成果物である」という考え方です。
2つ目は、顧客に対して不満足を与えない仕事をしていこうという意味です。
これは一人ひとりの心がけの部分でもありますが、個人の気持ちや頑張りに頼るだけでなく、企業として5Sに取り組むことで、仕事をする基盤の整備を狙っています。
3つ目は、「見た目」です。
見た目は、相手の印象に残り、「見た目=実態」であると認識されがちです。
たとえ相手との接点がない場合であっても、常に周りを意識し、「あるべき姿」に則る姿勢が肝心です。
5S活動の大切さは、企業のトップなど経営幹部に近くなるほど、よくわかっているものの、「なぜ?必要なのか」の説明を省いてトップダウン的に行うため、やらされ意識になり社員のやる気が続かないケースも多いようです。
例えば、単純に「見た目が良くない」「みっともない」だけでは納得してくれない社員が多いということです。
つまり、「なぜ5Sが必要なのか」を社員に浸透させる必要があるということです。
5S活動を通じて「モノの考え方」に変革を与えることができれば、難しい改革・改善テーマであっても、成果が出るまでやり抜こうという気持ちが高まるでしょう。
しかし、5S活動ならば何でも良いというわけではありません。残念ながら、効果が出る前に挫折してしまうケースも多くあります。
そこで、組織の土壌を改善し、効果が高く、継続することができる5S活動とはどのようなものなのか、「組織が変わる5S活動の進め方」を紹介します。

2.全員参画の5S活動

決められた人だけが参画している5S活動では成果は限られてしまいます。
活動に参加していない人がいると、「あの人はやらなくていいのに、私たちだけがやらされている」という気持ちを持つようになります。
つまり、不公平感を持ちやすく、それが活動への参画意欲を低下させます。
一方、全員参画の5S活動では、不公平感を覚えることはありません。
「みんながやっているのだから、私もやらなければ」という気持ちを持つようになります。
人間には、集団や人間関係において自分が所属したい、受け入れられたいという「所属の欲求」があると言われています。
全員参加により一体感を持ち、所属の欲求を満たすことができます。

全員参画の5S活動

3.対話でコミュニケーションする5S活動

組織が変わる5S活動では、いたるところに「人と人とが対話する場」が設けられています。
以下はその一例です。

対話でコミュニケーションする5S活動
対話により思いや考えが伝わり、社員のモノの見方や考え方に変革を与えることが可能になります。
例えばチームリーダーが「5Sをきっかけにして、皆が本音で話せる職場を作りたい」という思いを持っていたとします。
その思いを、5S活動の折にふれてチームリーダーからメンバーへと伝えます。
すると、その思いに共感し、賛同する人が出てきます。
「チームリーダーは自分と同じ考えだ」、「チームリーダーが言うような職場になったらいいな」と思うと、「そのために自分も貢献したい」という気持ちの高まりを生み出します。
賛同者が増えるほど、本音で話すことが当たり前になっていきます。
そうして、チームにおいては「本音で話す」という文化が根付き、結果として職場内に一体感が生まれます。
この一体感が組織風土の変革にとって重要なポイントになります。

対話でコミュニケーションする5S活動

4.自ら行動できる社員を育てるポイント

1.「気付く」と「行動」を一体化させる

整理・整頓・清掃を通して、「おかしい」に気付かせ、そして、「何故そうなっているのか?」と原因を見つけて、その原因を無くす行動につなげることは、別々に考えることはできません。
それは、「おかしい」を無くすためには、「行動」が欠かせず、行動することにより「おかしい」がなくなり、次の「おかしい」を見つける目が醸成でき、その「おかしい→行動」の繰り返しで、職場の「きれい」が維持できるようになるからです。
よって、「気付く」と「行動」を一体化させなければなりません。
経営者および管理者は、整理・整頓・清掃を通して「おかしい」に気付く教育を行い、その「おかしい」を無くす行動をさせることが求められます。

整理・整頓・清掃は「おかしい」に気付かせ、「おかしい」を無くす行動をする人づくり

2.「躾(しつけ)」無くして「行動」無し

自ら行動できる社員を育てるには、「躾(しつけ)」が重要なポイントとなります。
5S活動における「躾」を教え込むのは、経営者・管理者の最大の役目であり、自然にできるまで教え込まずに途中でやめれば、それは、「躾」をしたことになりません。
多くの人は、面倒なことはしたくないと考えた方がよいでしょう。例えば、道具を元に戻したり、備品を補充したり、掃除をするのは、典型的な例と言えます。
そのような状態を見て、誰も注意しなければ、そのままになるとともに、放置した人も悪いことに気が付きません。
その悪さ加減を気づかせ、元に戻したり、気が利く行動をとらせるのが「躾」であり、その役割を担っているのが経営者および管理者と言えます。
場合によって、定着させようと思えば、強制的に実行させなければならないと考える必要があります。
以下に「躾」が定着するまでのステップアップを示します。

躾(しつけ)が定着するまでのステップアップ

3.挨拶できる職場づくりを徹底させる

「躾」は、礼儀作法を身に付けさせることでもあります。
礼儀作法の中でも基本中の基本といわれるのが、挨拶が当たり前にできることです。
お店に入った時、「いらっしゃいませ」と元気に挨拶されると、元気をもらった気がして、どなたも気持ちがいいはずです。
同じように、事務所や工場に取引先の方が来られた時、元気な挨拶をすると、この会社は気持ちがいいという印象を与えるはずです。
つまり、事務所や工場での挨拶は、事務所や工場ができる「営業活動」とも言い換えることができます。

4.「報・連・相」で約束事を守らせる

職場を維持するための重要なルールの中に、報告、連絡、相談(報・連・相)があります。
これは、仕事を指示したり指示されたり、また、お互いが連携して仕事をする上で欠かせないルールです。
指示したり指示されたり、お互いが連携して仕事をする時、以下の点を認識する必要があります。

「報・連・相」で約束事を守らせる
逆に報・連・相がキッチリできていれば、同じ目的に向かって取り組むことができます。
つまり、報・連・相は、職場でのコミュニケーションの基本ルールであり、自ら行動できる社員の必須ポイントでもあります。
以下に代表的な報・連・相の内容とタイミングを一覧にしました。

報・連・相の内容とタイミング

5.社員の自主性が高まり、社内コミュニケーション向上にも成功したA社の事例

(1)目的

A社取引先のB社長がA社を訪問時に、B社長より、A社の環境整備が不十分である点について指摘を受け、それをきっかけにして環境整備を開始しました。
A社では、「仕事をやりやすくする環境を整えて備える」ことを目的に掲げました。

(2)取組み概要

B社長からの指摘後、全社員で朝礼終了後30分間、社内清掃・改善活動を行う「環境整備」を実施することを決めました。
環境整備の具体的活動内容は以下の通りです。
環境整備の具体的活動内容

(3)成果

最初は、やらされ感のある社員がいましたが、職場環境が改善されてくると、その良い状態を自ら維持しなければならないという社員が増えてきました。
やがて、朝だけでなく、気になった汚れ、ほこりについてはその場で自ら除去するような社員が増えてきました。
この活動を通じての副次的効果としては、それまではお互いに見て見ぬふりしたことも少なくなかった社員同士がお互いに気遣うようになり、社員間のコミュニケーションも改善されました。

まとめ

組織風土変革は、決してトップダウンばかりでなく、社員自らが考え、行動し、気付きながら取り組むことも必要です。
社員自らが主体的に活動を行う組織をつくるためには、決して難しくない5S活動も大きな成果を上げることが期待できます。
これらの活動の成果はやがて、自社にとって利益にも直結するものです。
自社でまだこのような活動が徹底されていないならば、早速、活動を始めていただきたいと思います。

■参考文献
『5Sの基本が面白いほど身につく本』(中経出版)大西 農夫明 著
『5Sの基本と実践がよ~くわかる本』(秀和システム)石川 秀人 著
『書類・手帳・ノートの整理術』(サンクチュアリ出版)小西 七重・池田 秀之 著
『組織風土変革の進め方』(労政時報)片岡 幸彦 著

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