新卒者の早期戦力化を目指す効果的なOJTの進め方

1.企業の人材育成の現状とOJTの必要性

1.企業における人材の空洞化とOJTの必要性

「失われた15年」という言葉をよく耳にしますが、バブル崩壊以降、多くの企業が極端な成果主義にシフトし長期的な観点で人を育てることを怠り、さらには採用数を控えたため、そもそも人を育てる機会が減少しました。
その結果、多くの企業では近年、若年層の空洞化が目立つようになり、長期的な人事戦略として、少人数でも採用を継続していこうという動きが見えてきました。
しかしながら、職場の協力態勢は必ずしも十分ではありません。
これからOJT担当者に任命される20代後半から30代前半の若手・中堅社員の中には、自分たちの後輩社員がおらず、人を育てた経験のほとんどない人も多く存在します。
初めての人材育成を手探りで行うことは難しく、OJT担当者に任命されるのは、多くが現場の中核を担っている業務負荷の高い人たちです。
そんな彼らが手間のかかる割に成果が見えづらい人材育成に仕事の優先順位を上げて取り組むには、相当の覚悟と自分自身による意味づけが必要となるでしょう。
また、企業側としては「できる限り早く戦力化してほしい」ということが今の新卒者への期待です。
以前は、「5年程度で一人前」が、今では「3年で一人前」早い企業であれば「1年で一人前」になるという期待のもとに、仕事をこなさなくてはならない状況にある新卒者が多く存在します。
そのため、本人の資質や努力だけでは成果を上げられないという事態が起こっています。
そこで、今回は新卒者の人材育成の柱であるOJT(On the Job Training:職場内教育) を改めて見直し、早期戦力化するためにまとめました。

人材育成の体系

2.企業の人材育成の現状

(1)人材開発はOJTが中心

学校法人産業能率大学が2010年に実施した「経済危機下の人材開発に関する実態調査」では、人材開発の方針について、OJT中心か、Off-JT中心かを尋ねた結果、OJT中心に「近い」「やや近い」はあわせて87.4%でした。

人材開発の方法

(2)計画的OJTがしっかりと機能しているのは12.6%

計画的OJTの機能状況について尋ねた結果、肯定的な回答(「機能している」「どちらかといえば機能している」)が6割強を占めたものの、「機能している」と答えた企業は12.6%に留まっています。
「機能している」企業以外は、程度の違いはあっても何らかの課題を抱えている企業が多いとことがわかります。

計画的OJTの機能状況
機能していない理由では、「教える側に時間的な余裕がないから」(73.5%)が最も多く、 「仕組みが整備されていないから」(45.6%)や、「教える側の能力が不足しているから」 (42.6%)が上位を占めています。

機能していない理由(複数回答)

3.OJTとは何か?

OJTを知っている人でも、実際にそれをきちんと実行できているかとなると、不安に感じる人が多いようです。また、上司と部下の間でOJTへの認識が大きく異なることもあります。
OJTは、新卒者を迎え入れた期間中の教育だけのことと誤解している人も少なくありません。
また、特別な機会、場を設けて行うのがOJTだと決め込んでいる人もいます。
OJTは一般的には、下記のように定義づけされます。

OJTを行うことのメリット

4.OJTを行うことのメリット

新卒者を育成する場合のOJT担当者は、比較的年齢の近い20代後半から30代前半の若手・中堅社員が担うのが一般的です。
仕事をしながらマネジメントしなければならない立場となり、余計な仕事になりかねない新卒者のOJTは百害あって一利なしと考えるOJT担当者が出てくることが危惧されます。いくら優秀な人材でも伸びるための手順が悪ければ、中途半端な逸材で終わってしまいます。
教育は家づくりに似ています。
目に見えない部分で手抜きの工事をしても立派な家に仕 上がります。
しかし、その手抜きをした部分は長い年月の経過とともに露見してくるものです。
OJTは、OJT担当者、部下、会社にとっても多くのメリットをもたらします。

OJTを行うことのメリット

5.OJTの基本はPDCA

OJTを行う際もビジネスの基本である 「PDCA」サイクルに基づいて実施します。
PDCAとは、「Plan=計画」「Do=実 行」「Check=評価」「Action=改善」のことで、この繰り返しによって継続的に業務の質を上げていく仕事のマネジメントサイクルです。
OJTは、計画を立てることから始ま ります(Plan)。
その計画に基づいて、仕事を通して、経験をさせ、様々な能力を身につけさせていきます(Do)。
計画どおりに成長しているかどうか定期的に確認し、身についた能力と、身についていない能力を明確にしていきます(Check)。
計画通りに身につかなかった能力を、身につける処置をとります(Action)。
そして、次のステップで必要な能力をどのように身につけさせていくのか、これまでの計画を見直して次の計画を立てるのです(Planに戻る)

OJTのPDCAサイクル

自社のOJTチェックリスト

2.「自立」を目標に中期育成計画を立てる

1.新卒者の目標はまずは「自立」すること

「OJTのゴールはどこにすべきか?」と悩むことがあるでしょう。
新卒者の場合は、まずは「自立」が最初の目標になるでしょう。
「自立」という言葉は様々に解釈でき、人によ って意見が分かれます。
ここでいう「自立」というのは、現在の業務範囲においてOJT担当者の指示のもと、新卒者が自身の判断で業務を支障なく遂行できる状態です。
新卒者が自分の力で仕事を進められるようなるためには、次のようなことが出来ることが最低条件となるでしょう。

新卒者に習得してほしい基本的な能力
これだけ見ると、新卒者にとってはかなり高いハードルです。
数カ月や1年で一人前しようと思っても無理なのです。
ここまで成長させるには、どのような業務を通じて必要な能力を身につけていくのかを、少なくとも2年から3年という中期的な視点で計画する必要があります。そして、ひとつの目標に到達したら、その次を目指します。
例えば、業務範囲を広げ、業務遂行能力を高める、現在の職場の問題解決を図りながら、課題解決力を高めるのもよいでしょう。部分的にでも新卒者のOJT担当者としての指導・育成力をつけていくというのでもよいでしょう。
一段上のステップに目標を置くときが、その人にとってのステップアップのときであり、実際には決してゴールではないのです。
OJTがPDCAであるというのは、そういう意味です。

2.2~3年を目標とするOJT計画書作成の進め方

OJT計画書の一般的なシートの例です。
OJT計画書をつくり、OJT担当者、OJTの対象者である新卒者との間で共通認識を持たせます。

OJT計画書の書式例
OJT計画書は、会社の実情に合わせてつくりますが、次の3つのポイントを押さえていることが必須です。

OJT計画書に盛り込む3つの要素
この計画書をもとに「定期的な面談をし、進捗と成長を確認しあいながら進め、身についてきたら次の目標をまた立てていく」というOJTのPDCAを回していきます。
OJT計画書は、関係者が目的を共有するためのツールです。
ひと目で概要がわかるように、漏れなく簡潔につくりましょう。

3.OJT計画書記載のポイント

(1)「何が、どの程度できればいいのか」の目安をつくる

新卒者にどのようになってもらいたいかを記載します。
OJT実施期間終了後に、新卒者のどのような姿をイメージするかというのがポイントです。

OJT目標設定のポイント
営業職で例えるなら、「新規顧客獲得のために、自分自身で提案し、上司のサポートなしで、クロージングまで出来るようになる」というような具合です。
新卒者の成長のためであることはもちろんですが、最終的には会社への貢献につながることを意識して、目標を立てていくことが大切です。
OJTは意図的、計画的、段階的、継続的に行うことが重要ですが、「段階的」についてもう少し具体的に解説します。
これから指導する新卒者にどのような能力が必要になるのか、それぞれの能力に対して、レベルを設定していきます。

OJT目標設定のポイント
上記のように、成長段階が把握できるように能力を細分化していきます。
例えば、「交渉力」とか「折衝力」といった能力が必要ならば、次のように成長段階が把握できるように能力のレベルを細分化していきます。

OJT目標設定のポイント
最初は部内調整から経験させ、できるようになったら他部門への調整を任せてみる、それができたら、社外との調整を任せるなど、徐々に難易度をあげていきます。新卒者にとっても課題がわかりやすい仕組みをつくり、具体的な行勤レベルまで落とし込みます。

(2)「業務に必要な能力」の効率的な洗い出し方法

(1)基準がない場合は、OJT担当者が考える 自社に「能力要件書」や「職務要件書」と言われるような職種別・階層別の「業務に必要な能力」の基準があれば、「どのような能力を」「どのような場面で」「どのように発揮しなければならないのか」が明確にされているので、それをもとに計画を立てていけばよいのです。 それではそのような基準がない場合はどうすればよいのでしょうか。
基準がない場合はOJT担当者が、新卒者に求める能力の洗い出しを行うことになります。
(2)仕事の棚卸しをしながら、少しずつ増やしていく職場のあらゆる業務について、必要な能力を洗い出すのは非常に大変です。
OJTを少しずつ進めていく過程で、徐々に増やしていくという考え方が必要です。
まずは、自分たちの仕事の棚卸しを行い、出来る範囲で必要能力を洗い出します。
次にその必要能力を基にとりあえずOJTを始めていきます。
そうすることによって、OJTを行う過程で見落としていた必要能力が見えてきます。
OJT担当者の役割は、「能力要件書」や「職務要件書」をつくることではありませんから、それに時間をかけても仕方がありません。
100%でなくてもよいですから、まずは大雑把に作り、OJTをしながら少しずつ書き加えていきます。

(3)能力習得のために取り組む業務

例えば、企画書作成能力を高めるには、ざっと「情報収集力(顧客・競合)」「情報分析力」「業界知識」「情報を論理的にまとめる力」「自社製品の知識」などより具体的な能力が 必要です。
それらを一つひとつ身につけることが、企画書作成能力を高めることになります。
そこで、これらをどこでどのように指導・育成していくかを決めます。
OJTでは仕事を通じて指導することがメインになりますから、「いつ」、「どのような業務」を行い、「誰が」指導するかを決めておきます。
仕事の内容によっては現場で学ぶことや、取引先に行くこと、場合によっては、他社への出向などまで範囲が広がる場合もあります。

(4)評価

これは、PDCAでいうところの「Check」にあたります。
OJT実施期間が終了したら、どこまで出来るようになったか、どのような能力を身につけたか、ここで振り返ります。
目標の達成状況と今後の課題を、OJT担当者と新卒者がお互いに確認します。

(5)長期目標

OJTを通じて、様々な能力を身につけたら、新卒者の仕事の幅も可能性も広がってきているはずです。
今までできなかったことにもチャレンジできるようになるでしょう。
そこで、新卒者自身が「将来どのようなことに取り組みたいか?」「どんな仕事をしてみたいか?」「どんな人物像になりたいか?」といったことを考え、長期的な視点での目標(希 望)を新卒者と確認していきます。

3.日常業務を通じて短期的な育成状況をつかむ

1.短期的に習得すべき項目は毎月チェックする

新卒者がOJTを通じて、ビジネスマナーや知識・能力が身についているかはOJT担当者が定期的に評価し、本人にフィードバックすることが重要です。

OJT成長記録チェックリスト(OJT担当者用)の書式例

2.効果的な運用はOJT担当者の意識次第

「意図をもって計画的に行う」というのは非常に労力がかかるものです。
特に計画書を記入するのは、続けること自体負担に感じます。
続けていくうちに、いつの間にか書くことが作業になって、書くことで満足してしまい、書くことが目的になり、その結果挫折してしまうというのはよくある話です。
計画書の運用が続かないのは、多くは次の3つの理由からです。
(1) 時間がない
計画書を書くのは非常に手間のかかることです。
仕事に成果を求められるなかで、直接的に成果につながっているのか分からない計画書に時間をかけるということは、十分な理解と納得がなければできないことです。
どうしても手間であるならば、簡潔に書いてもよいし、一部だけでもかまいません。
まずはこのような計画書に慣れること、習慣化することから始めましよう。
(2) 書かされているという意識
目標管理制度をはじめとした様々な制度のなかで、このように計画書を記入させる会社は多いと思います。
それが形骸化し、人材育成の目的を果たしていないのであれば、組織として制度の運用に成功しているとは言えないでしょう。
ただし、OJT担当者が役割を果たすためのツールとしては、計画書の記入は十分意味のあることです。
周りがどうあれ、個人レベルではその計画書を活用するべきです。
(3) どういうレベルで書けばよいのかわからない
新卒者に足りないものを真剣に考えていくと、いつしか、OJT担当者である自分自身の成長のために必要な能力が見えてくることもあります。
それは新卒者にとっても学ばねばならないことのはずです。
能力向上の目標に関して書くことが思いつかないのは、あらゆることをすべて吸収した優秀な社員か、成長することを放棄した人です。

3.OJT計画書は随時修正が前提

OJT計画書の記入頻度は、ケースバイケースでよいでしょう。
これは、会社や職場単位でルール化されているところもあり、やり方は様々です。
ただし、一定の基準はあるべきです。
例えば、年に1回とか、半年に1回というようにルール化しておかなければ、日常の忙しさのなかで忘れ去られてしまうので、定期的に確認することが必要です。
もちろん、ルールに縛られて、運用が実態とかけ離れてしまっては意味がありません。
育成という目的のためであれば、柔軟に対応してもよいのです。
計画書は随時修正が必要です。
また、新卒者の成長が著しく、目標としていた能力が計画より早く身につく場合もあるでしょう。
その場合は、一定の時期を待たず、新たな目標を設定しても構いません。
新しい能力が必要ならその新しい能力を書き加え、段階的に身につけさせていくだけのことです。
OJTの進捗管理に計画は不可欠です。現状と比較しながら、今何をするべきか適確に把握することが重要です。

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